雇用が先か、利益が先か。

よく「忙しくなってきたから人を雇用する」という話しを聞きますが、
そんな安易に人を雇用していいのかなぁ、と感じます。

どんどんと、不安定な状態を作り上げるゲーム。行き着く先は「崩壊」です。

まずは適正規模の問題

このブログでもよくお話しをしますが、
それぞれの経営者キャラや経営方針・事業内容などによって、
会社の「適正な規模」というものがあります。
一度膨張してしまった組織を小さく縮めることはとても難しく、
痛みを伴うものですから、
経営者は自社にとって最も理想的なサイズとはどういう状態かということを
まず見極める必要があります。
そのうえで、
どういった事業でどれだけの仕事をしていくにあたって、
どんな仕事をしてくれる人がどれだけ必要か、
という組織イメージをもつ必要があります。

仮にどんどん組織を拡大していくとしても、
今後数年の組織のあり方をイメージして、
どの部分にどんな人材が必要なのかを計画したうえで
計画的に雇用していくことが必要になります。

特に小零細企業の場合は、
経営者の考える理念や方針に共感してもらえるかということがとても大切になります。
ですから、
「人が足りないから、とりあえず雇用しよう!」
といったような安易な雇用はぜひやめてください。
今日のブログの本来のテーマから外れてしまいましたが、
まず大前提として大切なことですので、敢えて最初に書かせていただきました。

人を雇うなら、まず利益を!

「忙しくなってきたから、人を雇用」という発想のなかで、本当に危険だなと思うのは、
現状それほど利益が出ていないのに、
単に忙しいからという理由で人を雇用してしまうことです。

会社の財務状態が脆弱で、利益も薄いところに人を雇用してしまうと、
当然相応の人件費がかかりますから、
さらに利益は出なくなってしまいます。
その時点で赤字になるのがわかっているのに人を雇用してしまうのです。

どのような人を採用するイメージなのかわかりませんが、
いきなり収益に貢献するような超優れた人材が
いきなり自分の会社に入ってきてくれるわけではないと考えましょう。
120%ない、と考えましょう。
新入社員さんは会社の利益に貢献するまでに、相当期間を要してしまうのです。

業界にもよりますが。ちなみに我々税理士やコンサルの業界では、
経験のない新入社員の場合、最低でも3年はかかってしまいます。
「いやいや、うちはそれを仕組みで解決して、1年目でも収益化に成功してますよ」
という事務所もありますが、
いくら仕組みが出来ていても経験によるスキルは絶対的に欠けていますから、
それは、入社1年目の担当者をつけられた顧問先に我慢を強いているだけです。

また話しが横道にそれてしまいました。
そんなわけで、新入社員は利益貢献するまでには相当期間を要するわけですから、
まずは社員を雇用しても大丈夫な財務状態(資金・損益とも)が必要なのです。
そうでないと、その社員を雇用したことで
会社の財務状態がどんどんと疲弊していってしまいます。

「先行投資」は、言い訳

そして社員を雇用した結果、赤字になることがわかっている会社が
雇用に踏み切るときにいつも耳にするのが、
「これは先行投資なんです」
という言葉です。

正直、かつての私も使っていた言葉です。
しかし、これは都合のいい「言い訳」である、と理解するのが正解です。
設備投資の場合は、その減価償却費によってしばらく赤字が続くとしても、
もうお金は支払ってしまっているわけですから
その後の経営にダメージを与えません。
借入を伴う場合はその先もキャッシュが出ていくことになりますが、
設備投資は導入したその日から、収益に貢献してくれます。

しかし人は違います。
即座に収益に貢献しないばかりか、
ずっと固定費として出費し続けます。
それで本当に収益が上がればいいですが、
そうならなかった場合、
その社員さんは会社にとっての重荷にしかなりません。

もちろんそうやって赤字が続くことは経営者にとってはプレッシャーです。
その結果として経営者によっては、
顧客や社員さんに目を向けずとにかく売り上げをあげることが目的化してしまったり、
その新入社員への風当たりが強くなったり、
ということがあります。
結果組織風土は、どんどん悪くなっていきます。
新入社員は最初から戦力になるわけありませんから、その社員さんは何も悪くない、
にも関わらずです。

確かに人を雇用することは社会貢献です。
それは否定しません。
ただそれによって会社を危機に陥れてはいかんのです。
とくにベンチャー精神あふれる若い経営者にありがちですが、
たくさんの人を雇用してどんどん大きくなっていく「カッコよさ」に目を奪われて、
「社会貢献」と「先行投資」という美しい言葉のもと、
無計画に社員を雇用するケースをよくみかけます。
しかもその経営者本人は計画的にやっているつもりなのが、より危険度を増します。

そしてそれに見合うだけの企業としての器がなければ、
もちろん思ったように収益は伸びず、
赤字が続き、借入が増大し、
取り返しのつかない(またはつきにくい)状態になる、
ということになります。
結果として社員は離れ、
経営者も馬車馬のように働いて辛い思いをし、
誰一人幸せにならない、
ということになってしまうのです。

まずは、収益性を高めること。

だからこそ、順番として何が必要かというと、それは
「収益性を高めること」
です。
まずは今の体制で、
全体が余裕をもって仕事をできて、
ちゃんと利益が出ている、
という状態を作り上げることが大切です。

人を雇用すると、最初のうちは収益に貢献しないばかりか、
教育に時間を割かれます。
ですから、その社員を入れると赤字に転落する、
なんて状態はもってのほかなのです。

そもそも現状の組織で全社員が必死になって働いて、
ほんの少しの利益が出ている、という状態で人を雇用し、
その分売り上げが多少増えたとしても、
収益性・効率性の低い状態で組織が肥大化していくだけです。
こんな危なっかしいことはありません。
うまく行っていない状態のものが大きくなったら、
うまく行っていない状態のものがそのまま増大していくだけで、
こんなものはリスクでしかありません。

新店舗の出店でもよく見かける光景です。
今の店舗の収益性が低い、もしくは赤字だから
お店を増やしてそれをカバーしようとする経営者をたまに見かけます。
これはとんでもないことで、
基本、今の店舗で利益を出せていない仕組みでそのまま新規出店しますから、
出来の悪い店舗がそのままコピー(または、さらに劣化コピー)されて増加していくだけ、
という最悪な状態を生み出します。

ですから新規出店の場合でもまずは
既存の店舗でしっかり利益をあげられる仕組みをちゃんと構築したうえで、
次の出店を目指すべきなのです。

安易に人を雇わず、
まずは現状のビジネスモデルでいかに収益力を高めるか、
ということに全集中しましょう。
そうして無事、次に人を雇用できる環境が整って初めて、
次の一歩へと踏み出していくべきなのです。

人の雇用は、
ただ忙しさを緩和したり、
ただ売り上げをあげるためだけの目的で
行うものではありません。
確かな事業の成長のために行うものなのです。

人の雇用は社会貢献であると同時に、
リスクであるということを正しく理解していただきたいと思います。
結果として不幸なことになるのは、その社員さんなのですから。

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