安易に人を雇うなかれ。

私はあくまで「小零細企業」を応援しているコンサルです。
もちろん大きな会社ほど、多くの雇用と経済効果による社会貢献も大きいわけですが、
積極的に人を雇用して、会社を大きくしていくことだけが「是」だと思いませんし、
小さいからこその正義があると思っています。

誰もが「最大」を目指す必要はありません。

人は最大の固定費

人を雇うと人件費がかかります。
そんなことを忘れている人はいないと思いますが(笑)

ただ、一般的に利益が出ている会社でも、
労働分配率は50%程度(つまり限界利益の半分は人件費)。
経費の中でも、圧倒的に大きな割合を占めています。

しかも一度増加すると、特に人件費のうち正社員の割合が多いと、
これを引き下げるのはとても大変です。

日本の労働基準法では
基本的にそう簡単に人を解雇できない仕組みになっていますから、
人を雇うのは簡単ですが、やめていただくのは極めて難しいのです。
よくよくご存じのことかと思いますが。

「会社が儲からないから」などという短絡的な理由で社員を解雇することは、
社会的信用を失いますし、
そもそも経営者責任というものに対する認識が甘すぎます。

雇用するということは、
その人の生活の責任の一部を負うことを意味します。
ですから、雇用するということはそもそも、
相当の覚悟をもっておこなうことであるはずなのです。

人を「先行投資」としない

正社員を雇用することは、
年間最低でも300万円以上の固定費を生むことになりますから、
もちろんそれに見合うだけの売上と限界利益が必要になります。

ですから、「忙しくなった」という理由だけで人を雇用するのは、
そもそも問題があります。

忙しくて、しっかりと利益が出ているのであれば、
それは必要な増員でしょう。
社員を増やすことでより利益を上げることができるでしょうし、
仮にそれほど利益があがらなかったとしても
現状の利益で賄えますから、大きな問題にはなりません。

しかし、現状利益が出ていない、または赤字の状態で、
忙しいからといって安易に雇用するのはマズいです。

人件費が増えつつも、それによって
売り上げや利益が増えることが約束されていない状態ですから。
場合によっては、さらなる赤字を生み出しかねない。

まずは現状の人員で、もっと効果的に利益をあげることができないものか、
考えることが先決です。

現状の「人的資源」をきっちりと資源として100%活用できているのか、
ということを振り返って、そうでないのなら、
まずこの%を高めていく努力と工夫が必要かと思います。

たまに赤字であったり利益が出ていなくて
「先行投資」といって簡単に人を雇用する経営者がいます。

「先行投資」というと言葉的には美しいですが、
要はバクチです。
投資をしてもそれがリターンとして跳ね返ってくる確信がない状態なのであれば、
非常に危険なことになります。

例えば先行投資として機械装置を購入する、というのは、
もしそれが失敗だったとしても、
その投資額をあきらめれば終わりです。

しかし人件費の場合、失敗したあともずっと毎月、
経費として発生し続けるのです。

「先行投資」という言葉でごまかすのではなく、
その雇用を行ってもそれを既存利益または確実な利益で賄える状態を作ったうえで、
人を雇用するのが大切です。

本当にやりたいことはなんなのか

いわゆる自己啓発系の勉強をしたり、
「会社は人を雇用して大きくすることで、社会貢献度が高まるんだ」
という思想に洗脳されたりして、
とにかく社員を雇用して会社を大きくしていくことが目的化している経営者が
たまにおられます。

比較的、野心に燃えた若い経営者にありがちかと思います。
たしかに社会貢献度は大きいですし、
大きな会社であるからこそできることはたくさんあります。

しかし、冒頭に述べた通り、
会社が大きいことが絶対的な正義であるということではありません。

その業種や業態、
そして経営のあり方によって、
本来あるべき適正なサイズというものがあります。

あとは経営者自身の器。

「器が小さいのなら広げればいい!」というのは間違いではありませんが、
根性論でもあります。
やはり人それぞれ、その人に適した組織のサイズというものは
存在するように思います。

そして先ほどお話しした通り、
一度大きくなった組織は、これを縮小することは
極めて困難なことなのです。

ですから、
「最初から」というのは難しいかもしれませんが、
ある程度の段階で
「自分はこの事業を通して、どの程度のサイズの組織を運営するのがベストなのか」
ということをよく考える必要があるかと思います。

さらに、それぞれの経営者、特に創業者は、
それぞれ自分のやりたいことがあって独立したのだろうと思いますし、
それがないのであれば、
「本当に自分のやりたいことはなんなんだろう」ということを
突き詰めて考える必要があります。

その中で「組織を大きくする」ということが目的化すると、
本来の自分のやりたかったことや、あるべき姿から、
どんどん遠く離れていってしまいます。

そしてそうなってからは本来の状態に戻すのは
とんでもない労力を必要とするのです。

・自分は本来、何がやりたいんだったっけ?
・それを実現するには、どんな規模感で、どんなサービスを提供していくことが相応しいのかなぁ?
・自分が一番のびのびと経営のできる組織のあり方ってどんなサイズなんだろう?

こういったことを、ぜひ大切にしていただきたいと思います。

そして自分が
「会社拡大病に冒されていた!」
ということに気が付いたならば、
できるだけ早い段階での方向転換をしましょう。
すくなくとも新たな社員を雇用するときに
よくよく自己と会社内容を振り返るようにしましょう。

社員さんは、
経営者の社会的欲求を満たすためのものでもなければ、
経営者の野心を実現するための道具でもないのですから。

そして何よりも、組織が大きくなるということが、
全ての経営者に幸せをもたらすものではないのですから。

タイトルとURLをコピーしました