「遺言」を残すことの大切さ。

経営者にとって、遺言書を残しておくことはとても大切なことです。
もちろん経営者でなくても遺言書を残しておくことはめちゃ大切なことですが、
経営者だからこそ、より大切なことがあります。
そして、「遺言」とは遺言書だけのことを指しているのではありません。

遺言は公正証書遺言で!

遺言書には大きく分けて、
「自筆証書遺言」
「公正証書遺言」
「秘密証書遺言」の3種類があります。
そして一般的にはこのうち前2つのいずれかを利用するケースが
多いだろうと思います。
「うちの子は、大丈夫」と思っていても、私の経験上、
人格とお金(財産)への欲は別物です。
ちょっとした行き違いで争いに発展するような例は
山のように存在しますし、見てきています。
だからこそ、遺言書を残すことは
相続すべき財産を有している限り、必須といって良いほどです。

そして、ちゃんと遺言書を残すということを考えるのであれば、
やはり多少のお金はかかったとしても
公正証書遺言にしておくことが大切です。
自筆証書遺言には
・裁判所での検認手続きを経ないと執行できない
・書き方に不備があると、実効性をもたない
・自分が亡くなった後、見つけてもらえないことがある
・複数残っているとややこしいことになる
などなど、落とし穴がいっぱいです。
せっかく自分の意思を伝えるわけですから、
それが正しく伝わるように、
公正証書遺言で遺されることを強くオススメします。

遺言書はお亡くなりになる本人が、
自分の意思を最後に残すことのできるものです。
そういう意味ではそこに記載することは財産の配分だけでなく、
残された人たちへの感謝の言葉と共に、
残された人たちへ自分が最後に伝えておきたい願いなども
しっかり記載しておくことがとても大切だと思っています。

経営者ならではの相続問題

経営者はサラリーマンをされている方とは異なり、
一点大きな違いがあります。
それは、自分の会社の株式を保有している、ということです。
自社の株式には一般的に、
会社の財産権と決議権がセットになっています。
種類株式の発行によりそれが分離されている場合もありますが、
それは現状マイノリティです。
しかし中小企業の場合株式は、目に見える財産ではありませんので、
経営者本人がそれを「財産」と認識できていないケースが
とても多いように思います。

しかしその会社の財産権である以上、
その株式には評価額が存在します。
しかもこれまで良い経営をされてきたことで、
それなりに利益が出ていて内部留保がしっかりされている会社の場合、
その金額はハンパない金額(場合によっては億越え)になります。
これを金額としていきなり目の前に見せられたときに、問題が生じるのです。

問題その一.相続税の問題。

もちろん評価額がある以上、これは相続財産として認識されます。
しかし上場株式とは異なり、
換金性はほぼゼロです(事業継続している場合)。
だからこそ、この分に対する相続税が
思いっきり負担となってきます。
こうならないように、事前に株式対策を行っておきましょう。

大きく分けて、「生前贈与」と「事業承継税制の活用」が
その対策となってきます。
今日の本題ではありませんので詳しくはここでは述べませんが、
生前に手を打っておくかそうでないかで、
雲泥の差を遥かに超える差になってきますので、
必ず税理士に相談するようにしましょう。
というか、ここが問題になりそうなのに
このことに触れていない税理士には、
大いに問題があるかと思いますが。

問題その二.財産分割の問題。

株式には通常決議権がセットになっていますから、
その会社を引き継ぐ人がその株式を100%引き継ぐのがセオリーです。

最近は少なくなりましたが、かつては自社株式を相続対策の観点で
兄弟全員に生前贈与でばらまいているケースなどが散見されました。
自分が亡くなると同時に解散する会社であればこれで良いのですが、
そうでない場合、
今後会社に関わることのない人が
この会社の株式を保有することになります。

最初は兄弟ですのでまだいいとしても、
ひと世代変わると従兄弟同士となります。
そしてもうひと世代変わるともはや他人です。
こんな状態になって問題が顕在化している会社が山のようにあります。
ですからご自身の死後も継続が確定している会社の株式は、
生前贈与・事業承継税制・公正証書遺言を活用して、
その会社を引き継ぐ人が100%引き継げるようにもっていきましょう。

しかしここで一つ大きな問題が発生します。
会社を引き継ぐ人だけが表面的な金額上、
多額の財産を相続することになってしまうのです。
しかし現実としてはこの財産は換金性がありませんから、
もらっている側としては何か得している気分はありません。
それでも表面上は、とても不公平な分割となってしまうのです。

ここで、その株式をもらっていない人が不平をもらすかどうか。
これが大きな分岐点です。

いろいろ意見はあるでしょうが、私の私見としては、
「そこは文句をいうべきでない」
という考えです。
経営者が背負うものは、なかなか経営者でない人には理解されにくいですが、
それはそれは非常に大きな責任です。
世間で思われているほど「結構な身分」でもなんでもありません。
一歩間違えると、
大変な負債を抱えて倒産・破産に追い込まれるかもしれないようなものなのです。
日常的に抱えているストレスも、
通常の人とは比べ物になりません。
ですから株式に関してはその会社を引き継ぐ人が引き継ぐことを当然としたうえで、
財産の分配を考えるべきでしょう。

そしてこういったことは、
死後に相続人だけで話しをすることはとても難しいものです。
なぜなら今言ったようなことを、会社を引き継ぐ人本人が話すとそれは、
「自分が財産を欲しいからそんなことを言っているのだろう」
と思われること請け合いだからです。
そしてそう思われることを気にして、
そのような主張をできない人も出てきます。
だからこそこういったことは遺言書だけで済ませるのではなく、
生前にしっかりと次の世代に伝えておくべきことなのです。

生前にちゃんと話しをしておきましょう

生前に公正証書遺言の形で、
自分の思いと財産の分配について明確にしておくことはとても大切です。
しかしそれ以上に大切なことがあると思っています。

それはそういったことを生前に自分の口で、
相続人全員に伝えておくことです。

生きている間に本人らを目の前にして、
「私は財産の分配についてこのように考えている」
「私は自分の死後、このように願っている」
ということを、改めてそういう場を設けて伝えるのです。

直接話しを聞かされていると、
「親父が、ああ言ってたじゃないか」と納得もできますし、
その言葉を複数人で聞いておくことで、
その要望に反する主張をしにくくなります。
お亡くなりになった方の言葉を、残された人たちは、
そうそう無下にできるものではありませんから。

例え公正証書遺言があったとしても、
それが親の亡くなった後いきなり開示されると、
それは相続人間の感情的な問題に発展しやすくなります。
前項での自社株式の相続など、まさにそういうことです。
後世に遺恨を残さぬよう、経営者の方は
自分の死後のことについて
特に強い意識をもっておいていただきたいと思います。

そして意識を持つだけでなく、
それを実行に移していただきたいと思います。

まとめ

相続問題の対策に、年齢は関係ありません。
早ければ早いほど効果もありますし、
どれだけ若くても場合によっては明日事故で亡くなるかもしれないのです。

だからこそできるだけ早い段階で
相続に関しては手を打っておきましょう。

若い間はなかなかそんな話しを配偶者とする機会もないだろうと思いますし、
なかなかそんな空気感にもならないかと思います。
しかし危機感をもって、その空気感を打ち破っていただきたいのです。

相続の問題はあなた自身の問題ではなく、
残された人たちの問題なのです。
そして自分自身の問題ではないからといって放置しておくのは
ぜひやめてください。
自身がいなくなったあとも、
残された人たちが仲良く平和で安定した生活を送れることを願う。
それが当然のことだろうと思うのです。

「遺言」は「遺言書」だけのことを指すのではありません。
ぜひ、あなた自身の言葉を、あなたの口から直接、
相続人に伝えていただければと思います。

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