事業承継で、引き継ぐもの②

昨日のブログで、事業承継で考えるのは株式だけじゃないですよ、
というお話しをしました。
今日はその続きを書きたいと思います。

円満な二人。

前回のお話し

承継で引き継ぐものとして前回、
①理念
②経営資産・経営資源
③社外信用
というお話しをしました。

どれも非常に重要なものです。
重要な順番に記載しているわけではありません。
どれも公平に重要ですので、今回掲げるものも含めて、
どのようなスケジュールで進めていくのか、
ということがとても大切になります。

④社内体制

前回の③では社外信用についてお話ししましたが、
これは「社内」にも言えるお話しです。
親族(特にお子様)が会社に入ってくる場合、
多かれ少なかれ周囲の社員さんは
「ああ、この人が将来経営者になるんだろうな」
という意識を持たれます。
入社時期が事業承継のタイミングに近ければ近いほど、そう考えます。
だからこそ承継者と社員の間でのコミュニケーションと信頼関係がおかしなことにならないよう、
十分に気を付ける必要があります。

まず意識の問題としては、承継者は
「常にみられている」
という意識で日々の仕事に取り組む必要があります。
入社してすぐに他の社員さんと同じことができる必要はありません。
ただ他の社員さんと仕事に取り組む意識レベルが同じではいけません。
ただ目の前の仕事に一生懸命取り組むだけでなく、
会社全体・組織全体と将来を見据えた広い視野で
日々の仕事をみつめましょう。
「ああ、さすがこの人は次期経営者にふさわしい人だな」
と思ってもらえる人となる必要があると思います。

しかし、「私は次期経営者だから特別だよ」といったような
空気感を出すのはもってのほかです。
それは周りが判断することであり、自分からそういう空気管を出すのではなく、
自然と周囲からそう判断される自分にならなければならない
ということです。

むしろ入社したばかりでは
自分はあくまで何もできない新人なわけですから、
謙虚な気持ちで周囲と接する気持ちが大切です。
現経営者はきっちりそのフォローをしてあげましょう。

そして承継者を組織に組み込んで、
どのような段階を踏んで最終的に自分の位置(=社長)に座ってもらうのかを考えましょう。
そのために会社の組織図は絶対必要です。
その組織図の中で最初はどこに入ってもらって、
その後どのように組織体制の中で成長してもらうのか。
そのイメージをもってそれを承継者と共有しましょう。
社内体制を考えるときに組織図はとても大切です。
事業承継関係なく、
自社の組織にとってもっともふさわしい組織図をつくりましょう。
組織図の作り方については、
またブログでテーマにあげることになるかもしれません。
今は未定ですが(笑)。

⑤経営者としての業務

これは特に掲げるでもなく、当然に行われることだろうと思います。

小さい会社では経営者もプレーイングマネジャーとして
現場で社員さんと同じように業務に携わっていることも多いです。
そんな意味で現経営者も現在の組織図の中で
経営者としての位置づけ以外の部分を兼務しています。
その「兼務」部分については④の社内体制の承継の過程で
承継者も関わっていきます(つまり、現場業務に携わっていきます)から、
ここで改めて取り上げる必要はありません。

これとは別に、
「経営者」として何を行っているのか
という部分を承継者に教育していく必要があります。
そのためにはまず
「自分自身が経営者としてどのようなことを行っているのか」、
という棚卸しが必要になってきます。

まずはシンプルに書き出していくことだと思います。
そうやって書き出していくなかに、
「あれ?これ経営者の仕事か?」
というものも含まれてくるだろうと思います。
そういったものはこれを機会に他の社員さんに委譲し、
承継者には引き継がせないのも一つの手段です
経営規模によってはそうは言ってられないケースも当然ありますが。

経営者の役割は、「リーダー」であり「マネージャー」です。
自分自身が最前線で働くことではありません。
マネージャーの仕事は
「人を通して成果をあげる」
ことです(これは経営幹部にも言えることです)。
その認識で「経営者」としての仕事を徐々に引き継いで行きましょう。

⑥株式

最後に、会社の株式です。
株式には2つの要素がありましてそれは
(1)支配権としての株式
(2)財産権としての株式です。

まず、支配権という意味では、やはり承継者が経営者になる前に
一定数承継させておくことが必要になります。
これをどのレベルまで進めておくか、ということも重要です。
基本的に株式は全体の2/3以上を保有すると、ほぼ無敵です。
私の考えとしては、事業承継というのは「もうお前に任せるよ」という意思表示であって
その後は口を挟まないのが理想であるわけですから、
基本的には可能な限りすべての株式を承継者に移動する気持ちで
進めていけばいいのだろうと思っています。

たまに、「いや1/3超は確保しておかないと」
とかおっしゃる方もおられますが、
「もっと承継者を信用してあげてくださいよ」
と心の底から思います。
本当に不安な場合は株式のうち1株だけを「黄金株」というものに変更して
それを保有しておくということも考えられます。
これは簡単に説明すると、
株主として「拒否権」を発動できるということです。
ただ現実問題として「拒否権」を発動するということは
その時点で承継者との信頼関係は大きく崩れてるということですから、
結局いいことではありません。
あくまで「最低限の足かせ」という理解とともに、
「ちゃんと先代が見守ってるんだよ」という
社外に対する信用につなげる意味合いで利用したい制度です。

そして財産権については、これもとても重要です。
株価というのはその会社の利益と自己資本に、ある程度連動して上昇下降します。
つまり毎年ちゃんと利益を出している会社は
必然的に株価が上昇していきます。
最初1000万円と思っていた株価が気が付いたら2億円になっていた、
なんてことも十分ありえますし、
現にそういうことになって大変困ったことになっているケースもたくさんあります。

なにが困るのかというと、相続税です。
小零細企業の株式は支配権の観点からも流通の観点からも、
現金化することは不可能です。
しかし財産として価値があるとされてしまう以上、
それは相続財産です。
ということは先の例でいうと、
換金できない相続財産が2億円あって、これに莫大な相続税がかかってしまう、
ということです。

一応これに対する税制上のフォローは
「事業承継税制」という形でなされていますが、
現在でも非常に使いにくいものとなっています(これでもずいぶん緩和されましたが)。
ですので最も効果的なものは、
やはり定期的に株価をちゃんと計算して
事前に贈与などで承継者に時間をかけて所有権を移転しておくことです。
今後110万円の贈与税の非課税枠が縮小or廃止される可能性がありますので
心配なところではありますが、
いずれにしても現法律では110万の非課税枠は残されていますし、
これがなくなったとしてもある程度の贈与額までは税率も低いでしょうから、
多少の税金を支払ってでも所有権移転を進めておくということは
今後も大切になってくるでしょう。

そしてもう一つが、少数株主の整理です。
かつて法人を設立するためには複数人の株主を用意する必要があったため、
古い会社だと名義だけをもった株主が複数人いるような会社が結構あります。
「実際にお金をだしてもらっていない、名義だけ」
といくら言い張ったところで、株主であることには変わりありません。
そしてこれは社長から見たら叔父叔母であったり
兄弟であったり従兄弟であったりでしょうが、
承継者からするとほぼ他人みたいな方もたくさんいます。
ですのでこれらは承継前にぜひ整理しておきましょう。
承継者が引き継いで、元社長が亡くなってしまったりした後には、
思わぬ遺恨を残す結果となってしまいかねません。

ちゃんと専門家にお任せしましょう。

以上、一口に「事業承継」といいましても、
やらないといけないこと・考えなくてはいけないことは山盛りです。
そして、できるだけ早いタイミングから進めていくことが本当に大切です。
場合によってはちゃんと交通整理をして道筋をつけてくれる能力のある税理士に、
事業承継という部分だけ別でコンサル契約をしてでも、
しっかりと丁寧に着実に進めていかれることをオススメいたします。

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