事業承継は引き際が大切。

今、仕事で数件、事業承継の現場に携わっています。
今日は事業承継を迎えるにあたっての、経営者の引き際などについて。

経営者は「パッと引き継ぐ」

現役の経営者は、自身がトップとして
相当長い期間、自社を大切に育ててきた分
強い思い入れがありますし、
それに対する自負もあります。

創業経営者は、なおのこと。

ですから、もちろん個人差はあるものの、
次の世代が育ちつつある現状でも、
なかなかその地位を譲ろうとしないものです。

本人からすれば、
「自分はまだまだできる」
と思っているのでしょうし、
承継者に対して
「あいつはまだまだだ」
と考えていたりしますし、
その地位にしがみついているつもりなど
毛頭ないだろうと思います。

しかし、
「まだまだできる」というのは思い込みです。
「もうそろそろダメだな」
と自覚するような段階は
すでに相当ダメな状態でしょうから、
そうなる前に、
ぜひ承継を進めていくべきかと思います。

そしてやはり
「あいつはまだまだ」と感じているでしょうが、
そんなことはありません。
もちろん個人差はあります。
たまにはとんでもないボンクラもいます。
しかし大抵は、その地位を与えられたら、
その役割に見合う仕事をするようになるものです。

親からしてみれば、子供はいくつになっても子供ですから、
いつまでも「まだまだ」ということになってしまうのでしょう。

だからこそいつまでも「まだまだ」と考えていると、
気が付けば遅すぎた、
ということになりかねません。

ちゃんと時期をあらかじめ定めたら、
そこに向けて計画的に承継を進め、
勇気を持って、パッと退きましょう。

承継したら、「サッと身を引く」

とてもありがちなことですが、
承継をしたあとも、
ずっと会社のことに関わりたがる方が
多くいらっしゃいます。

「会長」という職にとどまり、
会社にたまにフラッと来るくらいならいいものの、
社長のやることに口を出したり、
社員さんに直接指示をだしたりされる方も。

これは事業承継のあり方としては、
やってはいかんパターンですよね。
これがひどい状態になると、
それを「院政」と呼ぶわけです。

もちろん本人は良かれと思ってやっているのでしょう。
その思考の根底は先ほどの、
「まだまだできる」
「あいつはまだまだ」
そして、会社に対する思い入れの強さにあります。

しかし、承継をしたからには、
いさぎよく身を引きましょう。

あらたな社長はやはり会長の気を遣って、
思ったように采配を振るうこともできません。
やりにくくって、しょうがない。

会長本人は良かれと思っているのでしょうが、
現実は「迷惑だ」ということを理解しましょう。

そして、社員さんにも迷惑です。
直接指示を受けたりすると、
社長と会長、どちらの言うことをきいたらいいのか
わからなくなります。

組織における指示命令系統ということから考えても、
これはあってはいけないことです。
組織において指示命令の流れは「一本」であることが原則。
そうでないとその組織は混乱を来たしてしまうのです。

「社長の目の行き届いてないところをフォローしてやろう」
ということかもしれませんが、
これも現実は「はなはだ迷惑」です。

承継をしたからには、いさぎよく、サッと身を引く。
ぜひ晩節を汚すことのないよう、
お願いしたいものです。

見えないところから「そっと支える」


ちょうど今日、
某顧問先の事業承継会議に参画していたのですが、
やはり社長が引退後も会社に関わりを持とう持とうとしてくるので、
承継者さんと一緒に明確にクギをさしておきました(笑)。

でも本人はやっぱり、
「後継者が困らないようにしてやりたい」
という思いからなんですよね。

もちろん自分の育てた会社から身を引かなければいけないという
寂しさもあるんだろうと思いますが。

ただその中で、今日明確にしてきたことは、
「社内のことについては、一切関わらないこと」

社員さんは、経営者が変わったその日から、
その会社のTOPとともに歩み始めます。
そこに先代が(たとえそれが善意であっても)いろいろ口出しするのは、
社員さんからすれば、非常にめんどくさい話しです。

ですから身を引いた先代が、本当に
「次の世代と残されたものが困らないように」
と思うのであれば、
見えないところからそっと支えましょう。

後継者を社長に据えたあと、やはり現実問題として、
困ったことに遭遇することはあるかと思います。

特に取引先・仕入れ先との人間関係が前社長との間で構築されており、
その深い関係を後継者だけで維持するのは難しい場合もあります。

そしてその取引先が会社にとって最も重要な存在の一つであるならば、
その関係維持は会社にとって最重要問題でもあります。

そんなときこそ、先代社長の登場です。
「会社に出社して社長と一緒に訪問するぞ!」
とかいうことでなく、
定期的にフラッとそういった取引先に顔を出しては、関係をつなぎ、
「うちの後継者をよろしくな」
と声をかけてもらう。
ただそれだけでいいのだと思います。

先代に残された影響力は、そんな
「会社外部との関係性」
という部分で、
優しく手をさしのべる形で生かしていただきたいと思います。

わざわざ後継者に、
「あの会社に行って、こんなこと伝えてやっといたからな!」
とかいう必要もないかと思います。
そんな自己主張をしなくとも、
その行動と思いは後継者である社長にちゃんと伝わります。

そんな形で支えている間に、
本当に後継者が力をつけて、
周囲との関係も強化して万全の体制になっていく。
その過程をへて、
ゆっくりフェイドアウトしていただく。
それが本当に美しい、事業承継なのではないのかな、
と思います。

今社長をやっている人、
「私はそんな引き際が汚い経営者にはならない」
と今は思っているかもしれませんが、
そう思っているのは今だけかもしれません。

いざそういう時期が近づいたら、
無意識にしがみついてしまっている。
そんなものだと思っておきましょう。
そして、
「自分は晩節を汚さんぞ」
と強く意識をして、
美しく去っていただければと思うのです。

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