110万円の非課税は、残った。

先日政府税制調査会にて、2~3年ほど前から懸案事項となっていた
贈与税の110万円非課税枠の取り扱いについての協議がなされました。
そしておそらく、「非課税枠をなくすことはできない」との方向になりそうです。

この制度による節税を考えていた人にとっては、朗報です。
なお今回の記事は正式な税制改正がなされる前の予想であることを
ご留意いただけたらと思います。

贈与税の基礎控除額、110万円。

110万枠を利用した節税

もう皆さんご存じかもしれませんが、
そもそもこの「贈与税の非課税枠」を活用した節税とは
どのようなものかというと、
毎年110万円の範囲で自分の子や孫に贈与を繰り返し、
自身の財産を移動していくことで、
自身が死んでしまったときの相続税を節税しよう、という方法です。

毎年110万ですから、たいした金額に思えないかもしれませんが、
これは贈与の相手を一人で考えた場合です。
例えば自身の子が2人いて、それぞれに配偶者がおり、
それぞれに2人ずつ(計4人)の孫がいて、
その全員に110万円ずつ贈与をすると
毎年110万×8人=880万円を無税で移動することができます。

これを10年繰り返せば、
880万×10年=8800万円もの大金を完全に無税で
次の世代以降に移管することができるのです。

ポイントは、できるだけバラ撒く、ということと、
長期間継続する、ということ。
ですから自分自身が死ぬ直前、とかではなく、
できるだけ早いうちから着手することが大切です。

後日の税務調査等で問題にならないように注意すべきことは複数ありますが、
今回のテーマではありませんので割愛させていただきます。

贈与税の存在理由と、非課税枠。

まず基本的な考え方として、
贈与税とは、なぜ存在するのでしょう?
というところから始めたいと思います。

世代間の財産移動に対してかける税金としては、まず、
相続税が基本になっています。
「相続で労せず財産を取得したのならば、税金払えますよね?」
ということです。
しかし当然誰もが、
「相続で税金がかかってしまうのであれば、事前に贈与をして免れよう」
ということを考えます。
これでは相続税自体が骨抜きになってしまいますので、
そういった贈与による節税を防止するために、
贈与に対しても贈与税という形で税金を課しているのです。
そして、相続税をたくさん徴収するためには贈与をしてもらっては困る、ということで、
贈与税はやたらと税率が高く設定されているのです。

しかし日常生活において、
生活費以外でもちょっとした贈与というものはあり得ます。
極端な話し、「1万円あげよう」くらいの少額なものまですべて課税していると
ひどく不便なことになりますし、当局の事務手続きも大変です。

そこで少額な贈与については追及しないよう、
非課税枠を設けてあるのです。

この非課税枠を活用した節税は、かつては
富裕層の人が税理士からの提案を受けて行う、というようなものでした。
これが現在のように一般的なものになったきっかけは、
平成25年税制改正です。
これにより平成27年度以降の相続に対して相続税の基礎控除が大きく削減され、
結果としていわゆる富裕層と言われる人たち以外の人にも
幅広く相続税が課せられるようになりました。

これを回避する手段として、この「毎年110万贈与節税」が
世の中に浸透していったように思います。

国が「相続税を幅広い世帯からとってやろう」としたことで、
この節税手段が広まり、課税が回避されるようになってしまうという
皮肉な結果となってしまったのです。

そうなると次は、
「この非課税枠をなくさなければ」という発想にいたるのは、
ある意味自然なことでもあります。

実際数年前から政府税制調査会で具体的に議論されるようになり、
税法改正の方向性を示す「税制改正大綱」にも
そのような文言が記述されるようになりました。

なぜなくならないことになったのか

以上のような経緯で、
「110万非課税枠は、間もなく使えなくなる!」
という話しが、まだ正式に決まってもない時点でマスコミなどでも報じられ、
世間一般に流布する、ということになったのです。

しかし前述のとおり、非課税枠を完全に排除することは、
その存在意義からして現実的に不可能ですから、
「縮小はあっても、撤廃はないだろうな」と個人的には思っていました。

結果として110万の非課税枠は、
少額贈与について追及するのは現実的でないとして、
やはりそのまま残る方向性となったようです。

現在の政府税制調査会長の中里氏が
「毎年の贈与について一定の基礎控除を設けなければ
 制度がもたない」
と話したとの記事が報じられましたので、
おそらく相当信ぴょう性のあることだろうと思います。

今後の方向性と対策

しかし、
「それじゃ、今まで通りで良かった良かった!」
ということではありません。

この連年贈与が問題視されていること自体、変わりはありませんから、
おそらくなんらかの方策で少しでも徴収することは
考えてくるだろうと思われます。

最も可能性の高いのは「持ち戻しの期間を長くする」という手段です。

「持ち戻し」とは簡単に説明すると、
生前に行われた贈与を仮になかったものとして、被相続人の財産に加算し、
贈与を受けた人はそれを相続によって取得したものとする、という考え方です。

現在も、相続発生から3年以内にされた贈与については持ち戻しを行って、
相続財産に加算して相続税を計算する、ということが行われています。

そしておそらく、この「3年」という期間を延長するという方策が
とられるだろうと推測されます。

しかしこれも20年30年と遡るのは現実的ではありませんから、
例えば10年とかいう期間で区切られるだろうと思います。
これによって、被相続人が亡くなる前10年間の贈与はなかったものとされますから、
相当の効果はあるでしょう。

そこで今後、相続対策として考えていかないといけないのは、
「できるだけ早いうちから手を打つ」
ということです。

もともとこの連年贈与による節税は
早いうちから着手して継続することで効果を生む節税です。
そんな意味で
「できるだけ早いうちから時間をかけて」
という基本は変わりません。

駆け込みで、その贈与が無意味なものとならないよう、
できるだけ早くから将来を見据えて、節税を考えていくということが、
今後ますます大切になってくるということです。
相続税の節税を考える必要がある方は、そんな意識をもって
早め早めの対策を講じていく必要がありそうです。

特に同族企業の経営者の方で、自社株式の価額がそれなりになってしまっている方は、
これまで通り早くからの株式対策を行っていくようにしましょう。

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