自社(自分)らしくない商品を売るべきか。

経営者の方(特に創業者)は、
自分の提供する商品やサービスについて並々ならぬ思いを持って
事業をされていることだろうと思います。
それでは、
その思いとは異なる商品・サービスの提供を求められたり、
本来自社の商品・サービスを届けたいと思う人以外の人がそれらを求めてきたとき、
それは手を出すべきなのでしょうか?

らしさ満載。

基本は手を出すべきではない

「顧客に対して、こんな商品・サービスを提供したい、
 それによって、こんな価値を世の中に届けたい」
という熱い思いをもっていらっしゃる経営者の方、
少なからずいらっしゃると思います。

しかし実際に独立・開業・創業してみると、
なかなか世の中その通りにはいかないものです。

いろんな方がいろんな要望を出されますし、
そんな中で自分のこだわりだけを貫いていては、
なかなか売上が伸びてこないことも往々にしてあります。

そして、顧客の声にはできるだけ応えてあげたいと思う自分がいますし、
一方では、本来自分はそんなことやりたくて創業したわけでは・・
と考える自分もいます。

基本はやはり、
自身の大切にしている考え方やコンセプトからはずれた商品は
提供すべきではないと考えます。
しかし、現実的に考えた場合、
必ずしもそれは死守すべきものでもありません。
それを提供してもいいんじゃないかと思う条件もあります。
その辺りを、私なりに整理してみました。

なぜ手を出すべきではないのか

それではなぜ、自分らしくない商品を提供することや、
本来ターゲットでない顧客に商品を販売することが
あまり望ましくないことかというと、
これにはいろいろ理由があります。

一つはモチベーションが下がること。

本来の自分がやりたかったことを曲げて仕事をすることは、
とてもストレスのかかるものです。
業種業態にもよりますし、個人差もありますが。
継続しているうちに、
「自分は何がしたいんだっけ?なんでこんなことやってるんだろう?」
と悩むことになります。

二つ目はミスマッチが起こること

自分の商品は本来自分が提供したいものを映し出したものです。
サービスもまたしかり。
それなのにターゲット外の顧客が
あなたの商品・サービス提供を求めてくるのは、
あなたが届けたい思いやコンセプトなどを
顧客が正しく理解していないということです。

その状態で商品を提供すると、顧客としては
「あれ?」ということになります。
求めている価値が、ずれているのですから。

顧客とのミスマッチは、こちら側のストレスでもありますし、
顧客も残念な思いをするリスクがあるのです。

三つ目は自身の価値が下がること

「自社の届けたいもの・価値を、それを求めるターゲットに真っ直ぐ届ける」
これがマーケティングの基本です。

その商品(価値)が、その価値を求めている人にちゃんと届くということは、
提供する価値が最大化される状態ですから、
結果として顧客満足度も高くなりますし、
それは価格を高く設定できることを意味します。

逆にそれがずれているとコンセプト自体もぼやけてきて、
消費者側から見たあなたの価値が下がりますし、
強気な価格設定ができなくなり、自分自身で自らの価値を下げてしまう結果となります。

なかなか利益があがらない場合

しかしそれはある意味「理想」であって、
実際の経営には現実の壁が立ちはだかります。

そんな中、なかなか利益があがらず(または赤字が続き)、
徐々にキャッシュが失われていくと、資金繰りの問題が生じます。

このとき、「私は運転資金の借入をしてでも粘り強くやり続けるぞ」
と考えるのでしたら、
ひとまずは妥協せずに、
自身の思いにしたがった販売を行うべきでしょう。

自分の思いに妥協することは、上記のようなリスクがありますし、
最終的にはその方向性を維持することが、
自身のイメージを損なうことなく、
顧客との良好な関係を築くことができる会社になっていけるだろうからです。

しかし自身を貫く中で軌道に乗るには、時間がかかります。

自身の考え方、価値観、コンセプト、
それらに対してできるだけ多くの方に共感してもらえるよう、
様々な手段を講じて発信しまくる必要があります。
そしてその状態を続けるにも、事前に一線を引いておくようにしましょう。
さもないと、ズルズルと借入だらけの会社になってしまい、
先々大変なことになってしまいます。

逆に、「借入リスクを背負いたくないので今の資金が尽きたら、やめよう」
と考えている方は、会社を継続することを優先するならば、
多少の妥協は必要なんじゃないかと思います。

とにかく必要なものは売上と利益ですから、
前項のリスクは呑んだうえで、
ある程度の節度をもった範囲で幅を広げて、
積極的に売上を伸ばすことが必要です。
そうしないと、その事業は立ちゆかなくなっていくわけですから、
結果として本来自分のやりたかったことはできなくなってしまいます。

将来自分らしい経営を実現するために、今多少の妥協をするのです。

ただし、本来の自分の姿・価値観・コンセプト、
これらを忘れないようにしましょう。
妥協は、事業が軌道に乗るまでの一時のもの。

この妥協に飲み込まれてしまうと、
売上を優先した何の面白みもない会社になってしまい、
自分らしさを失った魅力のない会社になってしまいます。

顧客との関係性の条件

自分らしくない商品を販売したり、
本来のターゲット外の顧客に商品を販売することは、
前述の通り、基本オススメできません。

しかし、その業種業態が、
顧客とどの程度の濃さの関係を築く事業であるかによって、
踏み込んで良い場合と、
できるだけ我慢した方が良い場合があります。

もし不特定多数の消費者に単発で商品を販売したり、
単発でサービスを提供する場合には、
もし顧客とのミスマッチが生じたり、顧客の満足度が低かったりということになっても、
一度限りで顧客の方から自然と離れていきますから、大きな問題になりません。

また自分にストレスがかかるとしても、その一回限りで済む話しです。

そもそも不特定多数を相手にする小売業や宿泊業などは、
ターゲット外の顧客が購買をされることは、
工夫次第でその数をできるだけ減らすことはできますが、
完全にゼロにすることは事実上不可能です。

しかし逆に顧客との繋がりが長く続くような業種の場合、
可能な限りミスマッチが生じないよう進めていくことをオススメします。

何事も、始めるよりもそれをやめることの方が難しいし、ストレスなのです。

一度契約をしてしまったら、
その後こちらもストレスが多く、顧客も満足度が低い状態で
ずるずると関係を続けてしまうことになる場合が多いのです。

これは双方にとって非常につらい状態です。
そしてその関係を解除するにも、なかなかにパワーが必要です。

そんなことになるのであれば、
最初から自社にとって理想的(またはそれに近い)顧客との関係を
結ぶようにするのがいいでしょう。

その分事業はなかなか成長していきませんが、
そこは「何を大切にするか」、という問題です。
多少ミスマッチが起こっても、それよりも事業を大きくすることを目指すのだ、
ということであれば、
それはそれで構わないかと思います。
私はイヤですが(笑)。

最終的には、自分のありたい姿を目指す

いずれにしても創業間もない頃など、
売上が全くままならない時期は、
誰にだってあることだろうと思います。

そんなときには、自分のこだわりに囚われすぎず、
少し幅を持たせることも必要かと思います。
私も独立当初はそうでした。
その後苦労することになりましたが。

しかしそうやって多少の妥協をしたときにも、
先ほどお伝えしたとおり、
自分らしさ・大切にしている考え方・コンセプトがどのようなものであったのか、
それは忘れずにいていただきたいのです。

最終的に理想的な小零細企業を作り上げていくためには、
自社の定義する理想の顧客に、
自社の提供する価値を正しく届けることで、
顧客は望んだもの(またはそれ以上)の価値を得ることができて、
自分自身もそれを通して幸せになることができます。

これが小零細企業のあるべき姿であると思います。

大きな会社にしていくには、多くの顧客が必要ですから、
そうはいきません。
しかし小零細企業であれば、超ニッチな世界でも生きていけますし、
逆にそれが小零細企業の生きる道です。

そのためにぜひ、たまには
「本来の自分のやりたいことって、何だったっけ?」
ということを振り返るようにしましょう。
ちゃんと文章や図表などにして、
頻繁に簡単に、振り返ることができるようにしておくと便利ですよ。

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