【バックナンバー】安易な値下げは「悪」である。

「少しでも高く買ってもらおう」という意識を持っている人と、
「買ってもらえないのが不安だから安くしよう」という意識の人は、
大きな差が生まれます。
特に後者の性質を持つ人は、経営者にならない方がいい、というくらい、
大きな問題であることを認識しないといけません。
ということで今日はバックナンバー、「安易な値下げは『悪』である」。

ーーーー以降、2021/11/28の記事より、転載(一部改訂)ーーーー

顧客からの値下げ要求に対して、安易に値下げをしてしまうことがあります。
場合によっては、相手から言われる前に値段を下げてしまうケースも。
いずれにしても「安易に」値下げしてはいけません。今日はその理由について。

自分が苦しい。

まずは当然これですよね。
値下げをするということは、それだけ利益が減る、
ということです。
問題は値下げをしたって、
その原価が下がることもなければ、
経費が減ることもないということです。

いま、皆さんの会社は、
売上高の何%が経常利益として残っているでしょうか?
優秀な会社でも10%程度かと思われます。
普通の会社であれば5%の利益が出ていればいいとこでしょう。
そこで極端な例として、
すべての売り上げの3%を値引きしたらどうなるでしょう?
売上以外の損益項目は変わりませんから、
経常利益は半分以下になる、ということになります。

そこで、その値下げした売上のまま
利益が維持されるようにするには、
・原価を下げるということ
・経費を削減すること
・他に売り上げを増やすこと
でしかカバーできません。

原価を下げることや経費の削減は大切なことなのですが、
これは日常的な利益最大化のための行動であって、
値引きで粗利益が確保できなくなったから行うものでもありませんし、
そもそも限界があります。
また行き過ぎた原価の低下は、品質の劣化につながるでしょうし、
行き過ぎた経費削減は、職場環境の悪化とモチベーションの低下につながります。

値下げした分、他に売り上げを増やすということは、
一見もっともらしく思えますが、
結局その分全体の労働時間が増えることになりますから、
収益性の低下につながり、
実は全く根本的な解決ではありません。
その行き着く先は、「疲弊」なのです。

結果、必ず自分の首を絞めてしまうことになります。
本当に値下げの必要があるのか。
その値下げを受け入れる必要があるのか。
値下げをするのであれば、収益性・効率性を落とさない工夫は可能なのか。
慎重に考えて判断する必要があります。

継続できない。

値下げは、それによって「自分だけが我慢すればよい」などという
単純な話しではありません。
前項に掲げたような理由により、
値下げは徐々に会社組織を疲弊させ、
最終的には破綻・倒産、という事態を招きます。
その場合に問題となるのは、
周辺にも多大な迷惑をかけることになる、ということです。

商品を買ってくださっている顧客にもいろんな顧客がいるでしょうが、
その中には
「あなたの会社だから買っている」
という顧客もいるでしょう。
場合によっては、
「あなたの会社だけからしか買えない」
ということもあるかもしれません。
ですから、事業を継続することそれ自体も、実は大きな社会貢献であり、
事業を無計画に破綻させることは顧客に多大な迷惑をかけてしまうのです。

安易に値下げを続けることは、
事業の継続性を失わせる大きな要因となるものです。
そして事業を継続できなくなるということは、
取引先にも大きな迷惑をかけてしまうことであるということを、
肝に銘じておきましょう。

業界にも悪い。

安易に値引きをすることは、
その業界全体にも大きな悪影響を与えます。

もちろん業界団体が横につながって談合をし、
正常な競争原理が働かないようにすることはもってのほかです。

しかし、
「顧客がそう言うから」
「そうしないと売れないから」
といって何も考えず値段を下げてしまうことは、
その地域におけるその商品の「相場感」を崩してしまう恐れがあります。
特にその地域におけるシェアが高い会社は、
自身がプライスリーダーであるという矜持を持っていただきたいものです。

その会社が無理な値下げを断行すると、
周囲の同業はそれ以上の無理な値下げを強要されることにつながります。

とくに小零細企業のメーカーなどがまじめに手作業で作成しているものは、
大企業が機械で大量生産をしているものと違い、
品質が高いことが多いものです。

それを大量生産品と同価格、またはそれ以下で販売されてしまうと、
同じように高品質なものを真面目に作って提供している会社も
共倒れとなってしまいます。

それで自社がしっかり利益を出せているのであれば、
それは企業努力によるもので、まだ良いことだろうと思います。

しかし、何も考えずただ
「売り上げが欲しい」
というだけの安易な値下げにより
そもそも利益が確保できない状態の値段設定をしてしまうと、
周囲の同業も同じように利益確保できなくなってしまいます。

ただし、
そもそも大企業が安価に大量生産している商品と比べて、
品質で同等または低いのであれば、
小零細企業はその土俵で闘うべきではないので、
即座に自社と向き合い、
自社商品の独自性を磨き上げる努力と、
新たな事業領域を模索し転換する強い意志が
必要となります。

このように、安易な値下げは
「売り手、わるし」
「買い手、わるし」
「世間、わるし」となり、
いわゆる「三方よし」と完全に反対方向に
向かってしまう意思決定です。

全ての値下げが悪いと言っているわけではありません。
もちろん戦略的に必要な値下げは必要です。
しかし、値下げをすることよりも、
「どうすれば、より値段をあげられるか」
を思考する方が遥かに健全です。

安易に値下げする、ということは、戦略ではありません。
むしろ思考を捨てた、戦略の放棄なのです。

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