ずいぶん間が空いてしまいましたが、
貸借対照表講座の最終講です。
貸借対照表を、めちゃわかりやすく解説します①
貸借対照表を、めちゃわかりやすく解説します②
貸借対照表の「流れ」を読む
貸借対照表(B/S)を読むにあたり、
私のような会計のプロが見たとしても
いきなり現状のBSを見せられても、
そこからわかるのはただ「現状」です。
自己資本比率(※)をみて、ああ高いな、低いな
ということがわかったり、
当座比率(※)をみて、ああ高いな、低いな
と思ったりしますが、ただそれだけです。
※自己資本比率=純資産/総資産
※当座比率=(現金+売掛+在庫など)/総資産
相当良かったり悪かったりという状態のものですと、
ああ、ものすごくいい財産状態だなとか
うわ、債務超過でえらい借金だわ
ということがわかりますが、
普通の状態の貸借対照表は
「ああ、普通だよね」くらいしかわかりません。
貸借対照表は一時点での財産状態を表示したものですからそれで当然なのですが、
やはりこれも「動き」で把握したいものです。
つまり
「前期と比較してどうなったか」
「この5年間でどのように推移してきたか」
こういった見かたをすると、この会社の歩みが
「動き」として見て取れます。
次のような会社を見てみましょう。
毎年利益を出しているので、利益積立は着実に増加。
しかし、3年前に自己資本比率が下がっています(青セル)。
設備投資のために長期借入を行った結果です。
着実に借金を返済し、徐々にキャッシュ残高も安定こういうのを見ると、
『ああ、これまで着実に利益を出していて
必要な設備投資を節度をもっておこなって、
着実にいい財産状態を築いていっているなあ』
ということが伝わってきます。
こんな財産状態をつくりあげるのだ、という計画と意志。
前回、貸借対照表は結果論ではない、
経営者が目標をもって作り上げることができる、
というお話しをしました。
損益計算計画が、利益を出すための目標であるとすれば、
貸借対照表計画は、良い財産状態をつくるための目標です。
目標をもってそれに近づける意志をもっている場合と
それがない場合とでは、
最終的にできあがってくる財産状態も
ずいぶん違うものだと思うのです。
家計で考えると、
「何年以内に〇〇万円貯蓄する」というのがあるじゃないですか。
その目標をもっているのと持っていないのとでは、
それを達成できる確率は大きく変わってきますよね。
それと同じことです。
そこに会社ならではの事情が加わって、少し複雑になっているだけです。
計画の立て方
上の貸借対照表を見てください。
計画しやすいように、シンプルなものとしてあります。
これら各項目を、1年後にどんな金額にするのか、
自分で意志をもって一つ一つ金額を定めていきましょう。
項目によっては最初から決まっているようなものもあります。
まずは右側の調達部門から。
支払手形
これがあると会社の即死につながるのでちょっとずつ減らしたい。
まずは1,000減らそう→1,000
買掛金
これは1ヶ月分の仕入代金くらいなので、同じくらいかな→1,000
長期借入金
1年間の返済は3,000千円。
でも6,000の機械の設備投資を考えているから4,000借りよう
→20,000-3,000+4,000=21,000
資本金
増資はしないから変わらない→5,000
利益積立
当期までの積み上げてきた利益→12,000
これで右側は来期利益以外が埋まりました
つぎに左側の運用部分。
受取手形
売上が増えても、手形取引はこれ以上増やさないでおこう→3,000
売掛金
現在月間売上の2か月分くらいになっているが、
これを1.5か月くらいにしよう→3,000
在庫
在庫、抱えすぎなので、20%ほど圧縮しよう!→2,400
建物
減価償却費で1,000減少→14,000
土地
そのまま→10,000
機械装置
設備投資するので機械装置6,000増加→6,000
現預金
どれくらいになるのかさっぱりわからない。
ここまで埋めると次のような状態になります。
これで空いているのは
右下の来期の利益と左下の現預金だけです(黄色部分)。
右の合計と左の合計は貸借対照表は一致しますから、
あとは方程式です。
一年後、
「これだけの現預金を持っておきたい!」という目標金額を埋めると、
右下の利益の欄に、そのための「必要利益」が算出されます。
例えば現預金を8,000という目標値を設定したとします。
すると左側の合計は46,400。
その金額と右側調達額は一致するので、
46,400から来期利益欄以外の金額を引くと、
来期利益は6,400となります。
調整が必要
この結果として
必要利益は6,400千円となったわけですが、
これがその会社にとって現実的と考えられるかどうか。
「こんな利益、絶対出せない!」ということであれば、
貸借対照表の各項目の目標値を変更することで
調整を行う必要があります。
・借入の金額を少し増やさなきゃ。
・売掛金、もっと減らすことはできないか?
・在庫、もうちょっと頑張って減らせないか?
という意思が生まれます。
場合によっては
・借入金の金額をもう少し増やすか、とか
・目標現預金、もう少し現実的な数字に減らそうか
という妥協も必要でしょう。
このようにして、会社で出せると考えられる現実的な利益とすり合わせ、
目標とする貸借対照表と、
そんな財産状態をつくるために必要な利益目標ができあがるのです。
そしてこの利益目標をもとに、
損益計算書の計画を行います。
実際に損益計算計画を作ってみると、
「現実的と思ってたけど、やっぱりこの利益目標ムリ!」とか
「あれ、案外簡単に達成できそうだな」
とかいうことが見えてきます。
するとまたそれに応じて貸借対照表計画を作り直せばよいのです。
このように、いったり来たりしながら、
自分にとって最適と考えられる貸借対照表と損益計算書の計画を立てるのです。
試行錯誤が必要になるので、必ずエクセルで
算式を入れて作成してください。
大変面倒なことになってしまいます。
まずは事業計画が必須
上記の具体例を読んでいただけたらお分かりかと思いますが、
貸借対照表を計画するためには(もちろん損益計画もですが)、
「事業計画」が必要です。
『来期1年を通して、どのようなテーマと目標をもって事業を行うか』、
ということです。
それがなければ、設備投資の金額など決まりません。
新しい事業を始めるのであれば、在庫が意外と増えるかもしれません。
新入社員の増員予定があれば、通常よりも利益が出にくいのかもしれません。
これら来期の事業計画をまずは綿密にイメージした後に、
貸借対照表計画の作成に取り組んでください。
そうでないと、それは全く意味のないものとなってしまいます。
税理士と一緒につくる
貸借対照表の計画を行うには、
貸借対照表の各項目の中身と、
その金額がどう推移するのかということを知る必要があります。
例えば固定資産の金額はこの先の減価償却費の金額によって定まりますが、
2年後3年後の減価償却費がいくらになるか、
たぶん知りませんよね。
そういった情報は、
決算を行った税理士または会計士が必ず保有しています。
会社も税理士も知らなければ、
それは誰も知らない、ということになってしまいます。
だから、貸借対照表計画は税理士と一緒に作成しましょう。
経営計画に知見のある税理士であれば、
経営計画全体から関わる形で協力してくれるはずです。
別途費用は必要になるでしょうが。
最初の1年は手書きがベスト
さきほどの解説で、
1年分の貸借対照表計画の作成方法を説明しましたが、
2年3年先も作成の方法としては同じことです。
例えば5年間の計画を作成するのであれば、
5年間の事業計画を立てたうえで、
5年後にどんな財産状態にしておきたいのかをイメージして
順番に金額を当てはめていきます。
そして出てきた利益が現実的かどうか。
あとは先ほどと同じ、試行錯誤です。
さきほど
「大変なのでエクセルで作成してください」
と書きましたが、
本当は最初の1年くらいは手書きで作成することをオススメします。
エクセルは自動計算で便利ですが、
手書きで実際に作り上げる方が、
貸借対照表の仕組みがしっかりと身に付きます。
身に付いたと思ったら、それ以降はエクセルで充分です。
自分でエクセルを構築するのでしたら
仕組みを理解してないとそもそも作れないのでそれでOKですが、
最初から人にエクセルのフォーマットを提供してもらうと、
ちゃんと仕組みがわからないままになってしまう可能性があります。
ですので、最初だけはちょっとだけ苦労してみましょうね。
以上で、貸借対照表の講義はいったんおしまいです。
またブログを進めていく中で、
忘れたころに記事にするかもしれませんが。
いずれにしても、
ぜひ一度ご自身で貸借対照表の計画を作成してみてください。
「こんな条件下だとこんな財産状態になるのか!」
ということが明らかになり、
とてもスッキリした気分になれること、うけあいです。
将来が霧の中で見通しが立たないから、
人は不安になります。
「こうすれば、こうなれるんだ」
という具体的な道筋とその成果が明確になると、
その不安感は取り払われるのです。