勘定科目は自由でいい。

よく顧問先に
「この場合、勘定科目は何にしたらいいですか?」
と聞かれます。
今日は勘定科目についての考え方について。

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勘定科目とは

勘定科目、という言葉は、
簿記の勉強をしたことのある人や、会社の経理に関わっている人、
ちゃんと会計を見ている経営者の方なら
必ず知っている言葉です。

逆に言うと、それ以外の人たちにとっては、
案外なじみの薄い言葉です。

「勘定科目」とは帳簿をつけるときに使う「項目」のことです。
例えば、「通信費」とか「旅費交通費」とかいったものです。
それぞれの取引に対して、どの勘定科目(=項目)を使うのかが決まっていて、
これが勘定科目ごとに集計されて、決算書や試算表が作られていきます。

経営者は自社の会計を読めなくてはいけませんから、
経営者はやはり当然のように知っておくべき言葉です。
昔、「勘定科目」という言葉を顧問先の社長の前で使ったときに、
「専門用語を使うな」と怒られましたが、すごく理不尽に感じました。
経営者にとって「勘定科目」という言葉は専門用語ではありません。
ちなみに私は普段できる限り専門用語を使わず、
極力平易な言葉で説明することを心がけています。

原則としては、決まっている。

どんな取引に対して、何という勘定科目を使用するか、ということは、
原則としては定まっています。
ですから簿記の試験や税理士試験では、
その取引内容によって何という名称の勘定科目を使用するかということは完全に決まっていて、
そのルールからはずれると「×」をくらいます。

これは会計が
『株主や債権者(銀行など)のためのもの』
という考え方がそこにあるからです。

その会社の状況を外部から見て、財務や会計から正しく判断するためには、
一定のルールの下に則っている必要があります。
もしそのルールが会社によってまちまちであると
他社との比較のしようがなくて困ってしまいますよね。

ですから外部の人間誰が見ても同じ判断がくだせるよう、
勘定科目も使うべき名称が定まっているのです。

勘定科目にもっと自由を!

しかしここで改めて考えたいのは、
小零細企業にとっての「会計」「財務」とは一体誰のためのものでしょう?
ということです。

株主のため?
銀行のため?
税務署のため?
違いますよね。
会計や財務というのは、
本来経営者が正しい経営判断をできるためのものです。

帳簿をつけるのは、社内の誰でもいいですが、
その結果である財務は、経営者のためにあるべきものなのです。

小零細企業の場合、99.99%は株主=経営者です。
ですから株主の気を遣う必要はありません。
そして銀行の気を遣って、経営判断ができなくなるような財務にするべきでもありません。
ましてや税務署への申告書を作成するためのものでは決してありません
(残念ながらそんな方が非常に多いわけですが)。

経営者は財務を経営者の元に取り戻しましょう。
そう考えると、勘定科目なんてものは、
経営者がわかりやすければそれでいい、という視点が生まれます。

どの経費をどんな名称の勘定科目に集計しようが、
それは自由です。
自由であるべきです。

ですから冒頭の質問の答えは、この視点から回答するならば、
「お好きに、なんでもいいですよ」となります。

好きにしていいと言っても・・

好きにしてもいいと言っても、そこはなかなか難しいですよね。
一つわかりやすい例をあげます。
これは私がよく使う事例なのですが、

「DMの切手を購入しました。これは何費でしょう?」
というものです。

切手代ですから一般的には「通信費」として処理されることになります。
しかしここで考えていただきたいのは、
「何を買った?」ではなく、
「何のために使った?」
ということです。

経営者であれば、自社が広告や販促にどれだけの経費を使っているのか、
気になってしょうがないはずです。
この考え方に立ったときに、
先の切手代は通信費でしょうか?
DMのために使ったわけですから、広告宣伝費、という考え方もできますよね?

これが正しい勘定科目の使い方であると思います。

ちなみに通信費、というのは
文字通り外部と情報をやりとりするための経費です。
今時、外部との情報のやりとりに、お手紙送ってますか?
もちろんそういった方もいらっしゃるでしょうが、
うちの事務所では切手は、
「ものを送ること」に使われます。
薄っぺらいものや小さいものでしたら「切手を貼って封書」となりますが、
これがサイズが大きくなっていくと、宅急便になるわけです。

では宅急便は何の勘定科目を使うかといったら、通信費ではないですよね。
「運賃」とか「荷造運賃」とかそういったものを使うはずです。
ですからうちの事務所では切手もレターパックも宅急便も、
これらすべて「運賃」です。
外部にものを送るのに、どれだけ経費がかかってるんだ、
ということがわかるようになります。

こんな風に、自社なりの基準を設けて、
自分がわかりやすい財務となるように、設計していくのです。

自分が管理したい項目以外は全部「雑費」、
という極端な経営者もいらっしゃいました。
さすがにこれでは後々、経費削減とかで難しい局面が出てくるので推奨できませんが、
経営者のもとに上がってくる内部的な財務資料としては、
これで充分なのだろうとも思います。

好きな名前の勘定科目をつくる

これは勘定科目に好きな人の名前をつけてくださいという意味ではありません(笑)。
一般的に使われているようなものではなく、
自分で勝手に勘定科目の名前を作る、という意味です。
当然ですが(笑)。

基本的に私はこれを推奨しています。
この目的は主に2つあります。

・特に管理したい経費をあぶり出すため

例えばデザインにかかった費用などは、多くの場合「外注費」とされます。
しかし、
「うちの会社はいったい外部へのデザイン料にどれだけお金がかかってるんだ!」
ということを知りたいのであれば、
「デザイン料」という勘定科目を勝手に作って、
デザイン料についてはその勘定科目を使うようにすれば一発解決です。

このように自社が独自にあぶり出して管理したいものについては、
わかりやすい名称の勘定科目を勝手に作ればいいのです。

・一時的に発生する費用をあぶり出すため

例えばあるとき、会社の引っ越しをしたとします。
引っ越しをするといろいろ物入りになります。

新しい細かい消耗品を買う機会が増えます(消耗品費)。
引っ越し先の修理をする必要もあります(修繕費)。
引っ越しすることで不要なモノを廃棄することにもなります
(外注費・支払手数料・雑費など)。

これらがそれぞれの()に記載されているような
一般的な勘定科目に埋まってしまったらどうでしょう?
引っ越しの翌年以降に、今年の金額と比較したときに、
「なんでこの年、こんなに消耗品費が多いんだ!」
とかいちいち引っかかります。
そして、
「もし引っ越ししてなかったとしたら、どの程度の金額だったんだ?」
ということが気になるかもしれません。
そしてそもそも
「引っ越しすることで、どれだけの経費がかかったんだ?」
ということを、管理する必要がありますよね。

もちろん別でエクセル管理することも可能ですが、
そこまでするくらいなら勘定科目を作ってしまいましょう。
ネーミングセンスを気にしないのであれば
「引っ越し費用」
とかでいいと思います。
こうすることで、損益計算書がいっきにわかりやすいものへと変身するのです。

外部に出すときに・・

このような好き勝手な勘定科目を作ってしまったとき、
外部(税務署や銀行)に決算書を提出する場合にちょっとためらいが出てしまいます。
その気持ちはわかりますし、
外部には理解されないほど特殊な名称をつけたときに、
税務調査を呼び込むことになってしまうかもしれません(まぁないでしょうが)。

そういったことが気になるのであれば、
決算書を作成するときには、
他の一般的な勘定科目と合算されるように設定すればそれで済みます。
少なくとも私が知っている会計ソフトは全てこの機能がついていますから、
ほとんどのソフトできっとできるだろうと思います。

しかし、検証したわけではありませんが、
昔ながらのガチガチのソフトほど、
こういったことができないかもしれないですね。

その場合は残念ながら諦めるか、
それができるソフトに乗り換えるかしましょう。

私の経験上、ガチガチのソフトは価格が高いばっかりで汎用性に乏しく、
使い勝手が悪いモノが多いと感じています。
会計ソフトの乗り換えにはパワーがいりますが、
その後の利便性等を考えると、場合によってはすぐに元がとれます。
そして結果として安上がりになることも多いものです。

財務、特に損益計算書は、
どんな取引をどんな勘定科目に振分けるかが命です。
それによって生きもしますし、死にもします。

ぜひ、財務を経営者自身の手に取り戻すべく、勘定科目にこだわってみましょう。
それをいやがる会計事務所もあるかもしれませんが、
それは会計事務所側の都合ですので、
押し通して変えてもらいましょう。

会計は、銀行のためのものでなければ、会計事務所のためのものでもありません。
徹頭徹尾、その会社の経営者のためのものであるのです。

ただし、どの取引がどの項目に入るのか、ということが会計事務所側に伝わる必要がありますから、
会社側にも一定の協力をしていただくことが前提になりますので、
そこのところはご理解くださるよう。

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