売上の柱を増やすことの是非。

事業を行うにあたって、売上の柱を増やして、いわゆる「多角化」を行うことは、
その経営にとって良いことなのでしょうか?
私はどちらかというと柱を増やすのは良いことだと思っています。
その理由と条件について。

売上の柱を増やすメリット

前述の通り、私は基本的には
事業の柱を増やすことは、良いことだと思っています。

私自身も売上の柱は複数もっています。

何をもって「複数の柱」とするかは難しいところです。
かつて「税理士業」というのは、一つの柱でした。
しかし、その業務の幅が広くなり、
情報が広く浅く行き渡る昨今では、
一口に「税理士業」とひとくくりにされる事業内容が
細分化され、専門化されて、
現在では「税理士業」という事業を
一つの柱として表現するのは、
ひどく乱暴な環境となっているように思います。

それらを細分化して考えたときに、当社には、
・月次顧問
・税務申告
・相続税(事業承継)
・セミナー、講演
・ブランディング
・M&A
・地域活性化
という多くの柱があることになります。

そしてこれだけ多くの柱を持っているには理由があって、
その中で最もおおきな理由はやはり、
「危機管理」です。

環境変化が激しい世の中ですから、
一本の明確な柱を立ててやっていく中で、
そのたった一本の柱が、いきなりポッキリ折れてしまう
なんてこともあります。

そんなときに、それを支えてくれる他の柱があれば、
そのうちの一本くらい折れても平気です。

そして二つ目の理由は、
「仕事における刺激」です。

私は基本的に飽きっぽい人間なので、
同じ仕事ばかり集中してやることが
得意ではありません。
うちのような超零細企業においては、
経営者のキャラがそのまま経営に反映することは
悪いことではありません。

むしろ欠点を補ってくれる人が少ないですから、
経営者自身が最もノビノビいきいきと仕事ができる環境を
整えることは大切です。

そして三つ目の理由は、
それぞれが相乗効果を生み出してくれるから。
能力的な意味での相乗効果もありますが、
一つの柱が、他の柱を補完する役割を果たしてくれます。

これは多角化するときの条件でもあります。
これまでの強みも生かせない、
かといって、
既存の事業に好影響を与えるわけでもない、
そんな完全なる「飛び石」な事業は、
いくら多角化といっても
基本的にはやらない方が賢明です。

大前提となる、深く太く高く。

しかし、間違えてはいけないのは、
まず大前提として、
今の事業の大黒柱をまずは、深く掘り下げ、
ちょっとしたことでは折れないように太く強くし、
事業をしっかり支えてくれるだけの高さ(売上規模)を
自然と作り上げられる状態に持っていくことが大切です。

多角化が否定される大きな理由は、
多角化によって、全ての事業が中途半端になることです。

いくらリスクヘッジだとしても、
既存事業が中途半端な状態で別の事業に手を付けることは、
これは逆にリスクでしかありません。

一つの事業について深く根を張っていくと、
その根が広がっていって別のところから芽を出し、
これが次の事業の柱へと育ってくれる。
こんなイメージで事業の柱は作り上げていくべきです。

そうやって生えてきた柱を、
次の大黒柱、または二大巨頭とするべく、大きく育てるのか、
あくまで大黒柱を支える脇柱として育てるのか、
その判断をしながら増やしていきましょう。

ただ長期的なリスクヘッジを考えるのであれば、
次の大黒柱に仕立て上げるつもりで育て上げる覚悟が必要かと思います。

逃げではないか。

先ほど、売上の柱を作るには、
まず既存のものがちゃんと大黒柱と言えるほど
ガッチリしたものになっているかということが大切といいましたが、
そうでない人が売上の柱を増やそうとするときに、
それが単なる「逃げ」であることが非常に多いように思います。

既存事業に対する思い入れがなく、
隣の芝が青く見えて、
なんだかそっちの方が儲かるように思える、
という発想でうまくいくほど、
新規事業は甘いものではありません。

そのような逃げの発想で新規事業を立ち上げる人は、
その事業を始めてもやっぱりうまくいかないから
また別の事業へと逃げていきます。

そしてそれらの事業がうまくいかなかったことを、
自分の事業運営に対する覚悟の欠如と捉えず、
「やっぱり、この事業もダメな事業だった」
といって、また別の事業へと手を伸ばすのです。

もちろん、どんなことも引き際は大切ですから、
泥沼にはまり込んでしまう前に撤退する勇気は必要です。

しかし、撤退して次の事業へと踏み出すことが、
単なる逃げなのか、大いなる英断なのか、
厳しく、客観的な視点で、
自分の心に問いかけてみましょう。

私心なかりしか。

先日、平成の大経営者、稲盛和夫氏が
亡くなられました。

その稲盛氏の言葉で、
「動機善なりや、私心なかりしか」
という言葉があります。

事業を始めるにあたって、
それは自分が儲けることだけ考えてのことではないのか、
と戒める言葉です。

もちろん「事業」を行うわけですから、
多少なりとも私心はあっても良いかと思います。

しかし、新たな事業を始める目的が、
「自分自身が儲けるためだけ」になってしまうと、
その事業に対する思い入れも何もなく、
なんとなく儲かりそうだからという動機だけで、
事業を始めることになってしまいます。

思い入れのない事業には粘り強さが出ませんから、
結果として前述の「逃げの新規事業」と同じことになってしまうのです。

どんな事業も、楽に儲かるものはありません。
特に新規事業となると、
いかに既存の強みを生かすものであったとしても、
想定していなかった問題も頻発しますし、
軌道に乗るまでは時間がかかります。

ですから、「命をかけられる」とまでは言わずとも、
少なくとも自分の人生の一部を注ぎ込むことができる、
そんな事業であるべきです。

もちろんそれは、社会に求められるものである必要がありますし、
自分自身がワクワクするものであることが欠かせません。

「儲かりそうだから」という理由だけのものは、
「なかなか儲からない」という現実に直面すると、
いっきにワクワクが失われます。

そのやろうとしている事業が、
儲かりそうだからワクワクしているのか、
その事業自体が楽しいからワクワクしているのか、
それを自分自身で正しく厳しく判断しましょう。

以上、長々と書いてきましたが、
私の考える、売上の柱を増やす条件でした。
柱を増やすことで事業全体が安定し、
経営者自身のワクワクが増大することを、
ぜひ目指していただけたらと思います。

タイトルとURLをコピーしました