生命保険は、ほとんどの人にとってとても大切なものですが、
経営者にとっては特に重要です。
経営者は大きなリスクを抱えている。
経営を行うためには、資金が必要です。
そしてその調達資金は
最初は自己資金を投入しますが、
強力な出資者やスポンサーを抱えているなどということはまずないでしょうから、
事業が大きくなるにつれ、
通常借り入れが必要になります。
そして日本では、中小企業が借入をする場合、
それが有限責任の株式会社であったとしても、
その代表者が連帯保証人になることで、融資が実行されます。
まれにそうでない場合もありますが、極々少数です。
つまり事実上の無限責任となるのです。
「経営者保証ガイドライン」なるものが8年ほど前に制定されましたが、
実務上あまり実効性が高いものではありません。
まぁそれが現実なわけですから、
そこに文句を言ってもしかたがないので、
それを前提にリスクマネジメントを考えていかなければならない、
ということになります。
普通のサラリーマンではまず抱えることのない大きな借入金、
その連帯保証人であり、会社の中枢である経営者に万一のことがあったとき、
残された人、残された会社は、なかなかに大変なことになります。
そしてこのときに、生命保険というものが、大きな威力を発揮します。
事業の安定した継続のために。
中小企業、とくに零細企業においては、
経営者はその会社におけるスーパーマンです。
なんせその経営者の作った会社ですから、
その経営者がいてこそ回っている会社だって
たくさんあります。
そんな経営者が、多額の会社の借金を残して
いきなりお亡くなりになってしまった場合、
会社のダメージは、はかりしれません。
それでも残された人たちが頑張って
会社を継続していこうとするときに、
多額の借入金が残された状態であると、
それが大きな足かせになってしまいます。
一時的に売上が下がったり利益が少なくなってしまったところで、
これまでと同じように借り入れの返済をしていると、
どんどんと会社の体力が奪われてしまうのです。
ですから、まずは基本路線として、
経営者自身に万一のことがあった場合に、
その借入金の全額を返済することができるだけの生命保険に
加入しておきましょう。
その保障で借入金を返済することができれば、
残された次の経営者や従業員は
安心して経営を復元させることに注力することができるのです。
借入金の全額はムリだとしても、
資金繰りに大きな影響を与えない程度の借入残高に
圧縮できるだけの金額で
保障額を設定しておくべきかと思います。
ちなみに、
保険料を会社の経費にできるよう、
会社が契約者となり、
死亡保険金の受取人は法人に設定しておくのが一般的です。
残されたものの生活のために。
前述のパターンは、
会社の経営がある程度安定していて、
借入金の金額もそれほど大きくない場合の話しです。
しかし例えば、
借入金残高が年間売上総額を超えているなど、
相当な金額になっている場合には、
経営者に万一のことがあった場合に、
その会社を継続するかどうか、
という問題が発生します。
「そんなときには会社を継続しない」、と見込まれる場合には、
生命保険の加入方法は前述のものと少し変わってきます。
前述のように契約者・保険金受取人を会社にしてしまうと、
その保険金はすべて借入金の返済に充てらるだけで、
銀行が得をするだけとなってしまうのです。
それでいて全額返済しきれなければ、
その借入残額は、保証人の相続人である、
遺族の負債となってきます。
経営者からの相続財産で
これを十分返済することができれば良いのですが、
そうでない場合には、
相続を放棄(または限定承認)することとなるのです。
つまり、残された遺族は、
経営者から1円たりとも相続することができない、
という事態に陥ってしまうのです。
これを避けるため、
こんなケースの保険は会社を契約者・受取人とするのではなく、
経営者個人が契約者、受取人を遺族、
とするようにしましょう。
経営者が亡くなったとき、
その遺産を放棄せざるを得なくなったとしても、
その死亡保険金は、経営者の保有する本来の財産ではありませんから、
遺族はそれを受け取ることができるのです。
(ただし、相続税法上は、経営者の遺産とみなされるため、
相続税の計算対象には入ってきます)
経営者に万一のことがあった場合の
残された遺族の生活保障のため、
経営者は法人契約ではなく、
経営の状況によっては個人契約で保険加入することが
正解となる場合もあるということです。
このようにシンプルな生命保険の加入一つとっても、
その状況と目的によって加入の方法は変わってきます。
このあたりのことまでちゃんと把握している税理士や、
任せられるファイナンシャルプランナーに相談をしつつ、
保険の構成を考えていただけたらと思います。
まれに生命保険を毛嫌いされている方もお見受けしますが、
活用できるものは、適切活用すれば良いのです。