かつて、金融機関から借入をしてマンション建築or購入する相続対策が流行りました。
今でも少なからずありますが。
そしてこの相続対策について、今でも誤解がありますので、今日はその解説です。
相続税計算の基本
細かい話しは抜きにしまして、相続税は、
そのお亡くなりになった方の総資産を相続税評価額として計算したものから、
その方のお亡くなり時点の負債を引いたもの、
つまり純資産にたいして課せられます。
これを前提に、
銀行から借入をしたら相続の課税対象額はどのように変化するかを
考えてみたいと思います。
元々資産を2億円、負債1000万円という財産状態の方の例で
考えます。
この方が、このままお亡くなりになったとすると、その相続税の課税対象は
2億円ー1000万円=1億9000万円
となります。
さてここで、この方がお亡くなりになる前に1億円の借り入れをしたとします。
するとその相続税の課税対象はどうなるでしょう?
まず借入は
1000万円から1億1000万円になります。
そして資産はどうかというと、
1億円現金を借り入れた状態ですから、
元の2億円から同じく1億円増えて、3億円となります。
そして先ほどと同じように純資産額を計算すると、
3億円ー1億1000万円=1億9000万円
ということで、先ほどと同じ結果になります。
ということで借り入れをしただけでは、負債が増えたのと同額だけ資産も増えるので、
結果として課税対象である純資産は変化しない、ということになるのです。
当然と言えば当然のことなんですけどね。
現金が他に置き換わることで圧縮される。
それではなぜ借入をすると相続対策になる、
という話しが出てきたりするのでしょうか。
そこで冒頭説明した、「マンションを購入」というテーマがからんできます。
ここでまず予備知識として知っておいていただきたいことは、
建物の相続税評価額はどのように計算されるか、ということです。
建物の相続税評価額は、その建物の固定資産税評価額(固定資産税の課税の元になる金額)で
評価されます。
そしてその固定資産税評価額というものは、だいたいどんなくらいの金額なのかと言いますと、
新築の一軒家の場合、
購入金額の4割~6割程度の金額となるのです。
アパートやマンションにしても、
それらが安く建築されてるのか、お金をかけてしっかり建築されているかにもよりますが、
新築価格の5割とかいう金額になるのです。
これですでにご理解いただいた方もいらっしゃるかもですが、
先ほどの例で、1億円を借り入れて、その1億円をすべて建物の建築代金に充てたとすると、
その1億円の評価額は、その建物の固定資産税評価額が5000万円だとしたら、
5000万円になるということです。
するとこの方の総資産の相続税評価額は、
元の2億円+5000万円(建物)ということになり
債務は元の1000万円+1億円=1億1000万円。
これで相続税評価額ベースでの純資産は、
2億5千万円ー1億1000万円=1億4000万円
となり、相続税の節税がなされる、ということになります。
借入をする必要はあったのか。
前述の説明で、
借入をして建物を購入することで、相続税の課税対象額が圧縮されて
節税になることがわかりました。
しかしここで、ちょっと待っていただきたい。
先ほどの例で課税対象額が圧縮されたのは、
借入による効果でしょうか?
違いますよね。
よくよく考えるとこれは、
現金で建物を購入することで、1億円の現金が5000万円の建物になり、
その差額5000万円が圧縮されたに過ぎないのです。
ですから借入をせずとも、
元々2億円もっていた現預金のうち1億円で建物を購入すると、
総資産は1億円+建物5000万円。
そして負債は1000万円のまま。
差額は1億5000万円ー1000万円=1億4000万円
となり、同じ結果となります。
つまり、借入は節税には関係なかったことになります。
それでは、この借入は必要なかったのでしょうか?
ここは議論の分かれるところです。
1億円の建物を借り入れで建てたからこそ、
建築後の手元現金は2億円をキープできたのです。
手元現金が減少することによる将来の生活不安を回避できるのです。
また別の見方では、借入をすることで3億でも4億でも
建物の購入にあてることができます。
例えば先ほどの例と条件が同じとするならば、
4億円を借り入れてこれを全額建物の購入にあてると、
2億円ほど相続税評価額を減少されることができるのです。
こういった効果を生み出すことを「レバレッジ」といいます。
もちろん借入したものは返済しないといけないですから、
のちの収益からこの借入金の返済が行われる必要があります。
これは大きなリスク要因となります。
もしその建物が自分の考えるような収益を生んでくれなければ、その投資は失敗だった、ということになりかねないのです。
またこのようなスキームで「行き過ぎた節税」を行うことは、法律により禁じられています。
かなり極端な例ではありますが、最近の最高裁判決により、
この手段が否決されたのです。
これらのリスクがありますから、安易に目の前の節税に踊らされることなく、零細に状況を見極めて、税理士などとも相談しながら、慎重に事を進めていただければと思います。
金融機関や怪しいコンサルタントの口車に簡単に乗ってしまわないよう、
ぜひともご注意ください。