不動産譲渡と相続にまつわる注意点。

自分自身が死ぬ前に、不動産を整理しておきたいというケース。
相続で使うことのない不動産を相続したのでそれを処分するケース。
相続の発生する前後は、不動産譲渡がさかんになります。
ということで、不動産の譲渡と相続がからむ場合の注意点で思いついたものを。

相続発生前にするか後にするか

近いうちに手放したい不動産がある場合、
それを譲渡するのは相続が発生する前がいいのか、
相続発生後がいいのか、どちらでしょう?

この判断はその不動産の時価と相続税評価額を知ることから始まります。

相続が発生したときにその遺産は、「時価」をベースにして
相続税を計算することになります。
しかし不動産のように明確に時価が明らかにならないものは、
「財産評価基本通達」というものに基づいて計算される
相続税評価額をもとに相続税を計算します。

しかしこの相続税評価額、
ある程度型にはめて計算するものですから、
結構時価と乖離する場合があります。

というか、だいたい乖離します。

多くの場合相続税評価額は時価よりも低め(約8割くらい)になるのですが、
場所や周囲の環境、形状その他の条件等により、時価よりも相続税評価額が
大きくなるケースも、ままあります。

このような場合、不動産を保有したまま相続が発生するより、
その前に売ってしまった方が、相続税計算上の遺産額は下がりますから、
相続前の譲渡が有利となります。

しかしあまりに売り急ぐことで足元を見られて
不当に低い価額で譲渡することになると本末転倒ですので、
そこだけは要注意です。

相続税申告期限から3年以内に譲渡する。

相続により取得した財産を、
その相続による相続税の申告期限から3年以内に譲渡することで、
その譲渡税が優遇される制度があります。

一つが「相続税の取得費加算」、
もう一つは「空き家の譲渡所得の3000万控除」です。

あまり詳しいことを書くとキリがありませんので簡単に説明しておきますと、
前者は、相続で取得した財産を相続税申告期限から3年以内に譲渡した場合で、
その相続で支払った相続税がある場合には、
その相続税の一部を譲渡収入から控除することができる、
というものです。
税理士は当然のように知っている制度ですが、
あまり一般的に知られているものではありませんので、
これは要注意です。

そして後者は、そのタイトルの通りで、
被相続人の居住していた不動産(空き家)を相続税申告期限から3年以内に譲渡した場合に、
一定の条件を満たせば、その譲渡収入から最大3000万円を控除することができる、
というものです。

先祖代々の不動産であれば、その土地は購入した金額が不明なことが多いですから、
多くの場合、相続した空き家の譲渡は結構な所得税がかかります。
これが3000万円も控除してもらえるということですので、
これを知っているか知らないかで大きなさが生じます。
徐々に一般的になってきて、適用件数も徐々に増えているようです。

しかしこの規定を適用するには、
場合によっては事前に耐震工事を行ったり、更地にしたりする必要があります。
その条件を満たさないまま譲渡したものには適用されませんので、
ちゃんとその条件を整えてから譲渡するように気を付けましょう。

この制度の存在を知らないと、
耐震工事もしないで空き家を取り壊さないまま譲渡をしてしまい、
後でこの制度のことを知っても後の祭り、ということになってしまいます。

以上、簡単な説明にとどめていますので、もし本気で考えられる場合は、
ちゃんと調べていただくなり、プロ(税理士)に相談するなりしてください。

複数の不動産を譲渡する場合

相続でたくさんの不動産を相続して、それらを順次売却したいときに、
同じ年に譲渡した方がいいのか、年を分けて譲渡した方がいいのか、
という質問をたまにいただきます。

通常の所得は「超過累進税率」といって、
所得が大きくなればなるほど税率が高まりますから、
できるだけ所得は分散した方がいいということになります。

しかし不動産の譲渡所得に対する税率は、
これがいくら大きくなっても一定なのです。

これだけ聞くと税率が一緒なんだから
同じ年に売却しても、年を分けてもどちらでも構わない、と考えがちです。

しかしここで一つ落とし穴があります。
それが、「国民健康保険」です。

普段支払っている健康保険が、給与天引きの健康保険であれば影響ありませんが、
国民健康保険を支払っているような世帯であるなら問題です。

国民健康保険はその年の前年の所得と連動して増減します。
そして税金とは異なり、年ごとの上限というものが存在します。
ここから考えられることは、
譲渡を2年以上に分けて行うと、
2年以上にわたって国民健康保険が高くなってしまう、ということです。
そしてこれを1年にまとめて譲渡することで、
その年の譲渡所得がめちゃ大きくなったとしても、
国民健康保険は上限がありますので、
爆発的に国民健康保険が上昇するのは1年で済むということになるのです。

ですので、できれば同じ年に不動産の譲渡はまとめてしまう、
というのが正解です。

先にも述べましたが、これらいずれも、
不動産の譲渡を急ぐことで足元を見られるのは本末転倒です。
ですので早く売りたい場合でもあまり焦り過ぎることなく、
大きく構えて取り組みましょう。

そして事前に相続税の評価額とおよその時価を早いうちに把握し、
適切に対応するようにしましょう。

金額が非常に大きい話しですから、ご自身で調べることも大切ですが、
場合によってはちゃんとプロに任せる、ということも必要かと思います。

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