短期前払費用について。

よく節税で使われる、短期前払費用。
それがどういったものか、ということと、その注意点について。
普段節税を経営にとって「悪」と断ずる私が、
久しぶりに節税を語ります。

法人税質疑応答集より。

短期前払費用とは

前払費用とは、事業者(法人・個人含む)が一定の契約に基づいて、
継続的に役務の提供を受けるために支出した費用のうち、
その事業年度(個人の場合は、その年)終了時点でまだ提供を受けていない役務に
対応する部分のものをいいます。

基本的に会計も税務も、
その「期間に応じて」収益も費用も計上するのが原則ですから、
先にもらったり払ったりしたものでも、
それに対応する仕事がなされていない期間に対応する部分は、
収益でもないし、費用でもないのです。

ですから基本的には、
経費を増やしたいからといって、
この先に仕事をしてもらう分を前倒しで支払ったとしても、
今年の分に対応しない部分は経費にならないのです。

まず、これが原則。

しかし、この前払費用のうち、
その支払った日から1年以内に提供を受けるものを支払った場合には、
それを「短期前払費用」といい、
これについてはまだ全ての役務提供を受けていなくても
全額経費にしてもいいよ、
ということになっています。

短期前払費用を使用した節税。

「前倒しに支払って、それが全額経費」という時点で、
そこに節税の香りがします。

ということで、これは節税で利用される、
比較的メジャーな類いのものです。

具体的な節税の手段としては、
1年以内に役務提供が完了するものは、すでに支払が完了していればそれは、
全額経費になるということですから、
そういった類いのものがあれば、
積極的に事業年度が終わるまでにその全額を支払ってしまうということです。
非常に簡単です。

毎月支払っているものを
年払いに契約変更して先に支払うことで、
この先およそ1年先のものまで今期の経費とすることができるのです。

契約書に支払方法の定めがあると思いますが、
それが「月払い」となっているのであれば、
その内容を「年払い」に変更しておく必要がありますので、そこは要注意です。

注意点その1、継続適用

しかし、この適用を受けるためには注意点があります。
その一つがこの「継続適用」ということ。

短期前払費用の趣旨は、
 毎年同じように継続されるものであれば、
 毎年同じ金額が経費に計上され続けるわけであって、
 それほど経営に大きな影響を与えるものでなければ、
 毎年「前払費用」として処理するようなことは面倒だからべつにかまわないですよ、
という「重要性の原則」に基づくものです。

ですから、継続することが大前提です。

今年は前倒しで経費にするけれども来年はしない、
という処理は認められません。
最低でも3年以上は同じ経理方法を継続する必要があると考えます。

注意点その2、今期にその役務の提供の一部を受けているか

これは結構間違いがちです。

例えば3月決算の会社で、その3月31日に前倒しで
次の4月~3月までの1年分の家賃を支払った場合に、
その支払った金額は短期前払費用として経費にできるかというケース。

答えは「×」です。

なぜかというと、
その支払の対象期間(このケースであれば4月~3月)が、
その支払いをした事業年度と一日たりとも重なっていないからです。

あくまで前払費用は、
「その支払ったもののうち役務の提供を受けていない部分」、
ということですので、
その全体が役務の提供を受けていないものは、単なる前渡金であって、
「短期前払費用」として経費にすることはできません。

逆に言うと1日でもいいので、
支払の事業年度と契約期間が重なるようにしておいてください。

注意点その3、資金繰りを悪化させないこと。

これは税務的な注意点ではなく、経営上の問題です。

基本的に「節税」と名のつくもののうち経費を増やすものは、
先に支払が発生します。
お金を支払ってもいないのに経費が発生するなどという
都合のいいものはありません。

税率が30%であるとするならば、
100万円前倒しで支払うことによる節税額は30万円です。
ですから税金は減りますが、それ以上の支払が発生することになりますから、
当然資金繰りは悪化することとなります。

たまに、資金繰りが良くないという理由で節税をしようと考える方がおられますが、
経費を増やす節税をすると、資金繰りはさらに悪化することとなります。
これが、私が節税が大嫌いな理由です。

さらに言うと、この手法は
あくまでこの先に発生する経費を前倒しで先取りしているだけですので、
中長期的に考えると結果としては変わりません。
そんな意味で、これを節税と呼んで良いのかどうかは微妙なところです。

どんなケースで使えるのかというと、
雑収入が入ってくるなど、たまたまその年だけ大きな利益が出てしまった、
というときです。

法人税は利益が800万円を超えると、
その超えた部分について税率が大きくなります。
来年以降はそれほどの利益が出ないので、今後低い税率が続くということが想定されるのであれば、
確かにこの年に高い税率で税金を支払うのは勿体ないように思います。

ですから
「とにかく今期の利益を圧縮したい」
という場合には、
ある程度有効かと思います。

一度使うと来年以降は使えない節税ですので、
やるならば、ここぞというときに使いましょう。
そして重ねて言いますが、
資金繰りは悪化しますので、その覚悟はしておきましょう。

というか、それが気になるくらいでしたら、ぜひ余計な節税はやめましょう。

節税は、資金繰りのいいお金が余ってしょうがない人だけができるものなのです。
まぁいずれにしても、ただの利益の繰り延べに過ぎないのですが。

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