ピーター・スコットさん逝去の訃報。

ロボット工学者のピーター・スコットさんが
お亡くなりになったとの報道を今日、目にしました。
自らを実験台に、これからスゴイことを実現されると思っていただけに、
本当に残念です。

ピーター・スコットさんとは

ほとんどの方はあまりご存じないかもしれません。
私も、昨年11月のNHK番組「クローズアップ現代」に登場されて、
そのとき初めて知りました。
そして初めて知ったと同時に、驚愕しました。

この方はイギリス人のロボット工学者なのですが、
2016年くらいから、ALSを発症されます。

筋萎縮性側索硬化症。
徐々に全身の筋肉が動かなくなっていく難病です。

おそらくこの病気の宣告をされた方は、どんな人でも
将来に対する希望を失うでしょう。

実は私の知り合いもこの病気にかかり、
自発的呼吸ができなくなるタイミングで人工呼吸器を付けないことを選択し、
数年前に亡くなられました。

そのときにも、
自分なら、どんな選択をするだろうと、本当に考えさせられたのですが、
ピーター・スコットさんには、
最先端のテクノロジーと
ロボット技術という武器がありました。

彼はALSを発症した後、
徐々に衰え動かなくなっていく躰の機能を、
AI(人工知能)とロボット技術で補っていくことで、
人類初のサイボーグとして生きることを宣言されたのです。

そのサイボーグとしての自分を、「ピーター2.0」と名付けて。

小学生のチャレンジの付録でついてきたAIロボ。こいつは役立たずです(笑)。

失うモノがあっても、新たに得られるものにワクワクする。

彼は、自身がALSになってしまったことについてこう言っています。

私にとってALSと診断されたことは、挫折とは程遠い出来事でした。むしろ、画期的な研究に乗り出すための、またとないチャンスだったのです。

もちろん最初からこの境地に至ったわけではないかもしれません。
しかし、この発想はすごいことだなと思うのです。

ALSにかかったことにより失うものよりも、
それによってこの先得られる(AIと一体化しサイボーグ化していく)自分に
ワクワクしているのです。

通常のALSの患者さんは、体の一部がその機能を失うときに、
それを人口臓器などの人工器官に置き換えていくのですが、
彼は違います。
サイボーグ化することが目的となっていますから、
体が悪くなる前に、積極的に人工器官に置き換えていくのです。

普通の発想ではないですよね。
でもとても理にかなっているとも言えます。
AIやサイボーグに置き換わっていくことで、生身の人間にはできなかったことが、
いろいろとできるようになっていくのです。

失っていくものに囚われる生き方と、
それによって新たに生まれ変わる自分に希望をいだく生き方。
その違いでこれほどまでに大きく、人生が変わるものなのだということに、
感動しました。

もちろん誰しもが彼のような知識や頭脳や技術を
持っているわけではありません。

しかし、
人生のあらゆる局面において、
経営のあらゆる局面において、
この考え方は人を、経営者を、救うんじゃないかと思います。

経営なんて、思い通りにならないことの方が多いですから。
そんな中で失ってしまったものより、
その経験によって得られたものや
環境の変化によって得られるかもしれないチャンスに
意識を向けることが大切だということを、
彼の生き方から学ぶことができるんじゃないかと思うのです。

壮大なる実験の結果は。

彼は最終的に自分の肉体がすべて失われてしまっても、
そのすべてが機械に置き換わった完全なるサイボーグとなることを目指していました。

そしてその状態を「ピーター3.0」と名付けています。

しかし、彼はその道半ばでお亡くなりになってしまいました。

私は、クローズアップ現代で彼の事を知った時から、
人類がサイボーグ化していくことの先鞭として、
彼がどんな姿に変わっていくのだろうということを、
とても楽しみにしていましたから、
個人的に本当に残念でなりません。

しかし、実際に彼の研究と技術開発がどこまで進み、
彼の「脳」がどこまでAIに移管されたのか、ということはわかりません。

ひょっとしたらすでにある程度それが進んでおり、
まだ発表にいたるまでの状態にはなっていませんが、
すでに彼の思考はAIに引き継がれているかもしれません。

そしてその来るべき日に向けて、
「ピーター3.0」の姿を練り上げている途中である可能性もあります。

しかし報道によると彼が亡くなったのは6月15日で、
6月30日現在SNS等の更新がないということですからことから、
この希望は、非現実的なことなのかもしれません。

彼は「ピーター3.0」に向けて自分自身のアバターを製作し、
そのアバターに自分の代わりに話しをさせるということを行っていました。
そして2050年には多くの人が
そんな自分自身の分身であるアバターを所有するようになると、
彼は予言しています。

今のAIの進歩スピードから考えると、
きっと本当にそんなことになるのでしょう。
それにより、人間の体だったからこそできなかったことが、
いろいろできるようになります。

AIの進化によって、
「こんな仕事が失われる」
とかいった後ろ向きな話しばかりに囚われるのではなく、
「こんなことが可能になるから、こんな可能性が広がるよね」
といったことに目を向けて
自分のサイズ感でのイノベーションを起こしていくこと。

今後の経営者に求められ資質はそういったものなのかもしれません。

そんな時代を彼が自分の身をもって、
誰よりも早くその世界を体現してくれる、という可能性は、
残念ながらほぼなくなりました。
ただ世の中の向かっていく方向性は、
彼が考えていた通りの方向に進んでいますし、
それを止めることは誰にもできません。

ですからただ私たちは、
その世の中が到来するのを待ち、
その世の中が到来したときにどんなことができるのか、
その思考の準備だけは整えておく必要があるのだろうと思うのです。

タイトルとURLをコピーしました