「稼がなくては!」という思いが人生を複雑にする。

会社にとって売り上げは絶対に必要ですし、
個人にとっても収入は絶対に必要です。
こんな「絶対必要」なお金。
しかしそのお金を、どのようなカタチで手に入れるかということこそが大切なのだと思います。

1986年トヨダAA型。トヨタ産業技術記念館にて。今見ても、美しい。

お金は価値提供の結果

先にもお話しした通り、経営をしている以上売り上げは必要です。
しかしここで考えなくてはいけないのは、
企業はどのような活動を通して売り上げを実現していくのか、
ということです。

もちろん事業である以上、商品やサービスを顧客に提供することで売り上げが生まれます。
そして顧客に提供する「商品やサービス」とはいったい何なのか、ということを考えてみると、
それはその顧客が求めるものをその顧客の元に届けることです。

いかにカタチあるものであったとしても、
それがその顧客の求めているものでなければ、原則そこに売り上げは発生しません。

商品やサービスは、その顧客が
「自分にとって価値がある」と認めるもの。
その欲求を満たしてこそ初めて商品・サービス足りうるのです。

つまり、商品やサービスとは、顧客価値そのものでなければいけません。
顧客にその顧客が求める価値を提供し、
それに対して喜んでいただけた結果として、
売上(=お金)を手に入れることができるのです。

あくまで売り上げは、価値提供の「結果」として考えるべきなのです。

「稼がなくては!」がよくない

しかし、事業をしていると誰しも経験することじゃないかと思うのですが、
気が付くと、
「売り上げをあげないと」とか
「稼がないと」という思いに囚われてしまいがちです。

その原因としてはいろいろ考えられます。

事業を経営しているうちに、その事業の拡大欲から自然発生することもあります。
経営計画を策定するようになって、
「目標売上」というものを考えるようになって、
いつのまにか売上をあげることが目的化するということもあります。
不用意に社員さんを雇用したりなどの理由で事業運営上の固定費が増大し、
事業を維持するために売り上げを求めにいってしまう、
ということもあるでしょう。

しかしいずれの形も非常に歪なものであるということが、
わかっていただけると思います。

本来売り上げは、顧客に喜んでいただいた結果であるはずのものが、
「売り上げをあげる」という行為そのものが目的化してしまうのです。

このように、「稼がなくては!」という思いが先立ってくると、
それが経営を複雑なものにしてしまうように思うのです。
そして経営がしんどいものになっていくように思うのです。

本来事業とは、とてもシンプルなものであるはずです。

どんな顧客にどんな価値を提供することで喜んでもらうのか、
その価値をそれを求める人にどうすれば届けることができるのか。
それをどんな組織でもって提供していくのか。
ただそれだけのことであるはずです。

ですから、利益が出なくなったときに考えるのは、
この流れの中でどこに問題があるのかを突き止めて、
それを改善することで解決していくことです。

・商品・サービスそのものに問題があるのか、
・それが自分たちの求める顧客の価値と一致していないのか、
・ただ単にその価値の存在が顧客に届いていないのか。

そういったことをすっ飛ばして、
「売らなければ」「稼がなければ」とかんがえ始めるところから、
事業の迷走と、不幸な経営が始まるのだろうと思います。

事業を拡大するということ

それでは「事業を拡大する」とはどういうことなのでしょう?

「組織を大きくする」とか
「もっと多くの売上をあげる」ということを目的としてしまうと
おかしなことになってしまう、ということはご理解いただけたんじゃないかと思います。

事業は、組織の大きさに合わせて大きくなっていくものではなく、
その組織が提供できる価値の大きさに合わせて大きくなっていくものであると考えます。

『自社のこの製品・商品・サービスは本当に素晴らしい。
 これをもっと多くの人に届けることでもっと多くの人が豊かになるだろうし、
 もっと多くの社会問題が解決する!
 それを実現するぞ!』

この思いを強くして、その実現に向けて動いていくことで、
その事業と組織は健全に拡大していきます。

昨日家族旅行で、トヨタ産業技術記念館に行ってきました。
トヨタは皆さんご存じのとおり、
最初は豊田佐吉の自動力織機の発明に始まり、
二代目喜一郎が国産自動車の開発を開始したところから、
現在の巨大企業の姿へとつながっています。

その事業の思いは一貫して
「もっと世の中を豊かにしたい」
「この事業を通して、日本を復興させたい」
といったものでした。

その他の大企業も、少なくともその創業当時は
そんな強い想いとその実現に向けた情熱で出来上がっていったのだろうと思います。

ですから、事業の規模を決定づけるものは、
その経営者の「価値を届けたい」と思う範囲の規模であり、
その範囲を広く求めたとしても、経営者の器の範囲にとどまります。
そして、
「こんな顧客に、こんな価値を届けたい」という
「顧客」や「価値」の範囲がそもそも狭いものであるならば、
その事業はそれ以上に大きくなるものではありません。

だからこそ事業の適正規模を見極めることが大切なんじゃないかと思います。

事業は「自分が稼ぎたいから」で大きくなるものではありませんし、
「もっと売り上げをあげたいから」で大きくなるものでもありません。
それで一時的に大きくなったとしても、
それは事業拡大ではなく、
事業の「肥大」と呼びます。
決して長続きするものではありません。

長続きしない、ということは
結果として多くの人を不幸にします。

事業は売り上げが大きいからエライ、というわけではありません。
「稼がなくては!」という思いにかられてしまうことで、
経営者が自分自身の人生を、
複雑でしんどくて無為なものにしないよう、
気を付けていきたいものです。

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