権限委譲とほったらかしは違う。

「権限委譲」という言葉があります。
上司が部下に、上司の持っている裁量と責任を与えて、部下に働いてもらうことですね。
「権限委譲」と称して、部下をほったらかしにする経営者がおられますが、
権限委譲と放置は似て非なるものです。

なんじゃもんじゃの木。本文とは関係ありません(笑)

「自由」を与えると、人は動くのか。

社員さんに
「自分で考えて、自由に何をやってくれてもいいよ」
と言ってほったらかしにして、
それを受けて全く動かない社員の姿をみて、
「あいつらは、何も自分で考えて行動しようとしない」
と文句を言っている経営者を、たまに見かけます。

それでは、人は完全な自由を与えると、自由に力を発揮するのでしょうか?
残念ながら、ほとんどの場合そうはなりません。

社員の自主性を延ばしてその能力を発揮させるためには、
「権限委譲」が大切であると言われています。
権限委譲とは、前述のとおり
上司がその持っている権限の一部または全部を部下に譲り渡し、
部下が独自の判断で行動・意志決定できるようにすることです。

部下は、自分の判断で出来ることが増えるわけですから、
ある意味これは「自由」な部分が増えることを意味します。
その自由な裁量権を与えられることで、
これまで限定されていたその人の能力を拡張することが出来るようになります。

権限委譲をすることで成果があがるのは、
そういった理由が大きいんじゃないかと思います。

ではなぜ
「何をしてくれてもいいよ」
という最大の自由を与えられて人は動かないのでしょう?

それは何かを与えられているようで、
実は何も与えられていない(と感じている)からです。

やるべき「範囲」を明確にしてあげる。

人は、自由すぎると、かえって何をしたらいいのかわからなくなります。

経営者はよかれと思って、
「自由にしたらいいよ」
と言っているのだろうと思うのですが、
それを受けた社員は心の底で
「自由って言ったって、完全に自由なわけではないよね」
と、考えます。

当然、完全に自由なわけではありませんよね。
経営者や上司の考えている方針や「幅」というのが必ず存在しますから。
だから、広すぎる自由を与えられた社員さんは、
逆に身動きがとれなくなってしまうのです。

「自由っていうけど、結局じゃあ何をしたらいいの?」
となってしまうわけです。

ですから、権限委譲というのは、明確に
「この権限を与えるから、これについてはこんな範囲で自分の判断でやってくれていいよ」
と定めるわけです。

ここが「ほったらかし」との決定的な差です。

こうすると、やるべきことが明確になるから、
部下は動きやすくなるのです。

「自由」というのは、経営者が思っているほど自由なものではないということを、
経営者は肝に銘じておく必要があります。

なぜ、そんな指示をしてしまうのか。

そんなわけで、実は制限があるのに、不明瞭な自由を与えられると
大多数の人は何をしたらいいのかわからなくなって、身動きがとれなくなります。
これ自体、めちゃ明らかなコトなのに、
なぜそんな指示の出し方をする経営者がいるのでしょう?

それは、その人が経営者だからです。

意味わからないですよね(笑)。

要は、経営者とはその多くが
自分の意志で勝手に考えて勝手に好きなことを始める人種だということです。

私は税理士ですが、
税理士でも最初から自分で独立したくてしょうがない人と、
組織の中で働いている方が楽な人の二種類がいます。
私は明らかに前者でしたから、
修行中はずいぶんとほったらかしにされてましたが、
アホみたいに自分のやりたいことをやりたいようにやっていました。
組織としてはどうかと思いますが、それで私が貢献できたことも、きっとあっただろうと思います。
私的にも、とてもありがたかったです。

でもこれは、私が優秀だからとかそういうことではなくて、
そもそもいわゆる「経営者思考」であったからです。
そして経営者というものは(特に創業者は)、
多かれ少なかれこんな性質をもっていますから、
「自由にやらせたら、勝手に考えて成果を出してくれるだろう」
と考えてしまうのです。

いや、違います。
それはあなたが経営者だからです。

一般的な人たちはどのような思考の元で行動するのか、
それをちゃんと理解してあげるべきであって、
「好きにしていいと言ってるのに、何もしない」といって怒るのは、
スジが違うのです。

経営者思考でない人の中でも、非常に優秀な人は、
上司や経営者が求めていることを慮って、
その中で自分に求められていることは何か、自分が今しないといけないことは何かということを
考え行動することができます。

でもそれは「非常に優秀な人」です。
そもそもそんな人は少数派です。
そこに基準を合わせて考えて文句を言ったとしても、それは現実的ではありません。

権限委譲したからには口をはさまない。

「権限委譲」とは、その仕事の意志決定権を託すことを意味します。
ですから、任せた以上は余計な口を挟まないことが大切です。

いらぬ口をいっぱい挟んでしまうと、
「任せたといっても、結局社長の気に入らないことは否定される」
という不満の元になるだけで、一度そうなると、
権限委譲による「能力の拡充」が期待できなくなってしまいます。

そんな意味で上司や経営者は「我慢」が求められます。
なぜ上司が上司たるのかというと、
それは部下よりも我慢が出来るから上司なのです。
そんな意味で、
経営者は誰よりも我慢ができるから、経営者であることができるのだと思います。

そして権限委譲した後に完全に放置してしまうのも、
それは正しい権限委譲ではありません。
権限を与えて、口を挟まないとしても、
ちゃんとケアはしてあげましょう。

「何も言わないけれど、求められたらいつでも手助けする準備はしているよ」
ということです。

誰かが言ってました。
「目は離してもかまわん。ただ、心だけは絶対に離すなよ!」と。

とてもわかりやすい、名言です。
そしてこれが、権限委譲のあるべき姿であると思います。

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