多様性、という言葉をよく耳にするようになりました。
その英語である「ダイバーシティ」という言葉も。
多様性とは?
ほんの10年ほど前は、「ダイバーシティ」と言っても、ほとんどの人が理解できませんでしたが、
今はいろんな方向から多様性に関する情報が入ってきますので、
もはや一般的になったと言っても差し支えありません。
それではそもそも「多様性」とはなんなのでしょう?
一般的にわかりやすいのが、
性別や人種、国籍や年齢など、
表面に現れているそれぞれの特徴の違いですね。
そしてもう少し踏み込んだところでは、
価値観や宗教、家庭環境や教育や経験なども、
その違いが多様性を生みます。
最近の日本が海外に比べて力を失って言っているのは、
この「多様性」が乏しいから、と言われています。
確かに政治も経済の場も男性ばかりだし、
もっと言うと、それなりの地位についているのは、老人に近い男性ばかりです。
「男性社会」の中で
「経験と調整力」が重要視された世の中であればこれで良かったのでしょうが、
変化を求められる社会では、そりゃあ力を失っても当然ですよね。
多様性が事業の幅を広げる
それではなぜ多様性が力を生み出すのかというと、
それは、いろんな人がいれば、そこに新しい可能性が見いだされるから。
例えば私は税理士でもあるわけですが、
昔ながらの税理士事務所であれば、やっている仕事は帳簿をつけることと、
税金の計算をすることです。
ですから事務的な仕事を正確に早く行う、という能力がひたすらに問われてきました。
こんなところに、私のような事務的な仕事が好きでない、
そして好きでないことへの集中力が乏しい人間が入ってくると、
それはそれは大変なわけです(笑)。
ちなみに好きではないというだけで、
その能力が欠けているというわけではありませんからご安心を(笑)。
このように、事務よりもクリエイティブな仕事に向いている人が税理士事務所に入ってきた場合、
古い体質の事務所では、
「仕事のできない人」になってしまうわけです。
そして
「ここは自分には合わない」ということで、仕事をやめてしまいます。
事業としてやっている以上、事務が向いていないからといって、
わざわざその人のための仕事をムリに作ってあてがうなんてことはしてはいけませんし。
しかしここで発想の転換です。
事務能力のある人間ばかりの組織に、クリエイティブな人間が入ってきた。
これは、その組織の
「できることが増えた」
「能力が拡張した」
ということを意味します。
能力が拡張すると、そこに事業を広げる余地が生まれます。
「ムリに」仕事をあてがうのではなく、
今ある会社の強みと経営資源に、その新しい人を掛け合わせて、
新しい付加価値を生むことができるようになるのです。
これは企業にとって、非常に魅力的なことです。
それがその会社にとっての「独自性」になり、
「ヨソとの違い」を生み出すきっかけとすることができるからです。
受け入れるだけでは意味がない
多様性、という言葉が一般的な世の中になってきて、
「いろんな人を受け入れなければ」
という風潮になってきました。
ただその風潮にも大きくわけて2色に分かれているように思います。
一つは、いろんな人を受け入れて、その能力をいかして
新たなものを生み出そうという柔軟性のあるもの。
そしてもう一つは、
多様性と言われているから、とりあえずいろんな人を受け入れよう、
とだけ考えているものです。
日本では割と後者が目につくように思います。
古い膠着化した組織が、とりあえず格好を整えるためにやっているイメージですね。
しかし多様性の目的は、
いろんな人がそこに集って、いろんな人の発想や能力をMIXして、
新しいものを生み出すことですから、
そこにいろんな人が集まっているだけでは、それは多様性ある組織とはいいません。
先ほどの例でいうところの、古い体質の会計事務所に事務向きでない人が入ってきて、
居続けることができなくなっていずれ事務所をやめてしまう、
というのと同じ末路を辿ることになるでしょう。
もちろん、「多様な人を採用しよう」という心意気は大切です。
まずはそこに多様な人が集うことからスタートですから。
しかし本当の意味で多様性を生み出そうというのであれば、
そのいろんな人たちのいろんなアイデアを事業に活かしていく柔軟性が、
その組織に求められるのだろうと思います。
経営サイドが、
「自分たちの出来ること、可能性が広がったんだ!」
という感覚を持ちましょう。
するとそこにきっと面白いものが生まれます。
多様な人を受け入れるのであれば、表面だけ受け入れるのではなく、
その中身までしっかりと受け止める必要があると思うのです。
3人の会社でも多様性はある
それでは、小零細企業にとって多様性とはどのように考えるべきなのでしょう?
小さな会社は多くの人を受け入れる経済資本が乏しいですから、
そこに多様な人を求めようとしても、なかなか難しいように感じられるかもしれません。
しかし、先ほど「多様性の定義」で触れたように、
多様性とは何も、表面的なものだけではありません。
「多様性っていっても、いろんな国の人とか入ってもらう余地はないわ」
ということではないのです。
その組織にたった3人でも違った人がいれば、
きっとその人たちの価値観も違えば、これまでの経験も少しずつ違うことだろうと思います。
「価値観の合う人」で会社の方向性を統一するにしても、
そもそも価値観が100%一致するなんてことはありえません。
会社が最も大切にする部分であったり、
社会的に誰もが納得のいく部分で共通していればいいだけで、
それ以外の部分は価値観は違ってもいいですし、
そもそも元から違うものです。
だから多様性というものを考えるときに、
「新しい血を入れよう!」
と考える前に、
まずは今いる人たちの多様な価値観や発想力を引き出して、
それぞれの能力を今の経営に掛け合わせていくだけでも、
それは立派な多様性ある組織だと思うのです。
そしてそれがちゃんと実現できていれば、
本当に外から全く発想の異なる宇宙人が入ってきたとしても、
そんな人を受け入れてその能力を活かす土壌ができあがっているはずです。
まずは身近なところから。
きっと今の皆さんの会社の中にも「多様性」は潜んでいます。