どれほど規模を求めて拡大志向で走り続ける組織でも、
当然ですが、限りなく大きくなり続けることはできません。
必ずどこかで、頭を打つ時が来ます。
拡大を止める不安。
GDPが前年よりもマイナス成長だとそれはとんでもない景気後退とされるように、
経済と言うのは基本的に拡大していくことを成長と呼び、
拡大することで初めて維持されるもののようです。
それと同じように、企業や組織においてもそんな風に考えられがちです。
経営計画を作成するときには
前年対比で売上を減少させるような計画を作る経営者はほとんどいません。
特に数字だけの計画を作ろうとする方は、
何も考えずに「前年対比10%アップ」といったような計画を作ります。
今日、社員40名程度になる大規模な税理士事務所の社員さんと
少しだけお話をする機会がありました。
彼曰く、
「どんどんお客さんが増えていく」
とのことでした。
これはこれで、いいことでしょう。
拡大を方針とする組織なのですから、
しかし、
「納税意識が低い人や、帳簿状況がずさんで手間ばかりかかるお客さんが増えている」
「それによって一般よりも残業が多く、新入社員がやめてしまう」
というようなこともおっしゃってました。
これは由々しき事態ですよね。
「程度の悪い顧問先をお断りすることも考えているが、
ずっと拡大でやってきた組織なので、顧客を減らすことが怖い」
とのこと。
ここから先の話しは時間の関係でできませんでしたが、
この先どうすればいいか、私の感覚としては
「今すぐに顧問先を減らすか、少なくとも増加を止めましょう」
この一択です。
危険な「自然縮小」。
上記の組織の状況は、成長ではなく、
いわゆる「肥大化」の状態であると考えられます。
数字を見ているわけではないのでわかりませんが、
おそらく社員労働1時間当たりの粗利益は
減少していっているでしょう。
この局面に入ると、その組織の将来が見えなくなってきます。
この「見えなくなる」というのは、
「将来が不透明」という意味ではなく、
「将来が危ない」という意味です。
これまで拡大成長してきた組織が、
その規模を縮小したり現状維持をしたりするときに、
意図的にそうしている場合と、
意図せずそうなってしまう場合があります。
前者は、方針・戦略をもって行っていけば、
売上が減少していても強くなっていくことができますが、
後者のその先は、破綻です。
いわゆる砂上の楼閣。
基礎がしっかりしていないのに、上にどんどん積みあがていくことで、
自然減が始まるとあるとき一気に瓦解することがあります。
この事務所もこれほどのサイズになったわけですから、
これまでは他の事務所とは一味違った良質なサービスを
提供してきたのだろうと思います。
しかし良質なサービスを提供し続けるためには、
収益性の低いところにばかり時間を割いているわけにはいきません。
本来その事務所が提供すべきサービスを求める顧客に、
高付加価値サービスを提供することが困難となります。
現状のように、顧客の定義を行わず、どんな顧客もウェルカム、
という形を継続していると
そのうち、普通の会計事務所となんら変わりのない事務所となってしまいます。
社員の労働時間はさらに長くなり、
それによって将来性のある社員から順番に、やめていってしまうことになります。
そうやってサービス力が低下していく中で顧客が増加していくと、
社員サイドでそれだけの業務を支えきれなくなり、
また顧客側へのサービス低下も歯止めがきかなくなり、
最終的に瓦解するのです。
会社の現状を見たときに、
その拡大基調に危機感を覚えるのであれば、
すぐにでも純増をストップし、
自社の定義する「顧客」の範囲内の顧客とだけ契約をし、
徐々に顧客の中身を入れ替えしていくことが必要かと思います。
業界のあり方やトップの考え方や器などから、
「適正規模」というものは必ず存在します。
そして拡大に不安を覚えたら、
その組織は少なくとも現状のあり方での適正規模を
すでに超えてしまっていると考えるべきでしょう。
意図的に縮小する。
上記は会計事務所・税理士事務所を前提としたお話しですが、
これと同じようなことが、ほとんどの業界で当てはまります。
冒頭に書いた通り、市場のパイの大きさは決まっているわけですから、
組織が永遠に拡大していくことはあり得ません。
永遠の拡大がありえないのであれば、
事前に「現状維持」「縮小」の準備をしておく必要があります。
「縮小するのが怖い」というのは、
その準備ができていないということ。
売上が現状維持であろうと、縮小であろうと、
その会社の中身を充実させることで、
会社を成長させることは可能です。
仮に売り上げが変わらないとしても、
高付加価値サービスにシフトして、
より少ない顧客で売上が維持されているならば、
おそらくそこにかかる労働時間は短くなるでしょうし、
利益が出やすい体質とすることができるでしょう。
そうすれば社員さんの余裕も生まれますから、
そこにその組織のさらなる成長の余白が生まれます。
このように、
「戦略的に立ち止まる」
「戦略的に頭打ちにさせる」
ということが必要だと思うのです。
特に小零細企業の場合、
その提供サービスは独自性の強いものでなければ生き残れません。
独自性が強いということは、
その市場は非常に限定されている、ということです。
したがって、適正規模は比較的低いところに設定されるはず。
拡大することは確かに誰にでもできることではありませんから、
スゴイことだとは思います。
しかし、ただ拡大するからといって、エライわけではありません。
提供する商品・サービスの付加価値が高く、
顧客満足度も高く、
社員満足度も高く、
しっかりと利益が確保できている。
そんな充実したあり方を目指して、
組織作りをしていただけたらと思います。