前しか向いていないのは、危険。

いろんな会社の経営指針や経営方針、経営計画を見せていただいて、
経営者が本当に前しか向いていない会社があるのを見て、
愕然とします。
前向きなのはいいことですが、前しか見ていないのはいけません。

踏み固まっていない砂の上には、積み上がらない。

過去の積み重ねの上に積む。

人間は現在と未来に生きていきます。
過去はすでに過ぎ去った話しで、
いまさらこれを蒸し返したところで、
結果が変わるわけではありません。

そういう意味で過去を後追いすることにそれほど意味はなく、
大切なのは、現在と未来において、何をするのか、
ということです。

この部分については、何ら反論することはありません。

しかし私が経営者を見ていて
「これは危なっかしいな」
と感じるのは、
未来のことしか考えていないような場合です。

「こんなこと面白い!」と
アイデアや、やりたいことが
ポンポン出てくる経営者に多い傾向があります。

事業の未来のことを考えるのに、
取り組みたい・関わりたい未来のことしか見えておらず、
過去からのレールの上に乗っていないのです。

人間も会社も、
今あるものの上に積み上げていくことで、
成長があります。
そしてその「今あるもの」とは、
過去から積み重ねられてきたものの集積です。

前年を振り返って、
こんなことをやろうとしたけど、
こんなことができた、こんなことができなかった、
と振り返り、
それを踏まえて次、その上にどんなものを積み重ねるのか。

これが事業の計画であり、
その積み重ねに成長があるのです。

過去を振り返らず、未来のやりたいことばかり考えていては、
それは常にゼロからのスタート。
これを繰り返していくと、その経営者の走り去ったあとには、
かつて「やりたかったこと」の無数の残骸が残されます。

ですからまずは、過去を振り返り、
ちゃんと分析して反省をし、
その反省のうえに、次の一歩を踏みしめることが大切なのです。

粘り強さも必要。

そしてこの傾向の強い方によくあるのは、
反省をしたとしても、その反省に対する粘り強さがない、
ということです。

やると決めて、うまくいかなかったことに対して、
まだまだ改善の余地と成長の余地が充分あるにも関わらず、
「これはムリだった」
とさっさと捨ててしまって、
次の自分にとって楽しく感じられる新しい方へと向かってしまうのです。

これは反省をしているようでいて、
実はしていません。

ただ単に、興味を失ってしまっただけ。

もちろん、手を付けたものの、成果があがらないものに対して、
泥沼にはまる前に早期に撤退するという判断は、
経営者にとってとても大切です。

しかし、早期撤退と、飽きっぽさは全く別のもの。

経営者の趣味趣向に振り回されてしまっている、社員さんのことも
少しは考えていただけたらと思います。

一度やると決めたからには、
ちゃんと最後までやりきりましょう。

それを「やめる」という判断をするときには、
「ただ、飽きてしまったのか、本当に見込のない事業だからなのか」
ということを、何度も自分に問いかけましょう。

少し手を付けただけなのに、
「これは見込がないから」
と投げ捨ててしまう経営者のなんと多いことか。

その「見込がない」という判断は、
自身の飽きっぽさに対する言い訳ではないのか。
本当はそれは単なる言い訳で、実は面倒くさくなっただけ、
ということであれば、
その会社は何一つ、将来にむけて積み上げていくことのできない会社なのです。

足下を踏み固める

前しか向いていない経営者にありがちなものとして、
足下を踏み固めずにどんどん前へ進んで行く、
というものがあります。

ある事業を始めたときに、
その仕組みが整わないうちに、
さっさと人に任せてしまって、自分は先の新しいことに取り組んでいる、
というパターンです。

これはその経営者の元に、
現場の仕組みを構築する実務型のNo.2がいる場合には、
とてもうまく働きます。

アイデアがちゃんと事業として成立し、
そこに生じる問題課題が正しく解決されて、
その事業を通して収益を生み出し続ける形が、
ガッチリと固まるからです。

しかし、多くの小零細企業には、
そんな優秀なNo.2がいることはまれです。

逆にTopと同じ性格のNo.2で、二人でぶっちぎってしまい、
あとの社員は置いてけぼり、
というのは何度か見たことがあります。

先ほどお話しした通り、事業というのは、
今あるものの上にさらなる積み上げがされていくことで
成長していくものです。

ですから足下を踏み固めずにどんどん前に進んでいくだけでは、
現場がぐちゃぐちゃになっていくだけで、
事業を推進させる力が一向に生まれてこないのです。

まさに「砂上の楼閣」。

先に進みたい気持ちはわかります。
だって経営者ですから。
しかし、先に進む前に、まずは足下を踏み固めましょう。

その現場を離れる前に、
自分が離れてもちゃんと適切な運営がなされる状態にしてから
先に進みましょう。

さもないと、間に進もうとするのと同じだけ、
足下が崩れ続けることとなってしまいます。

内と外を何度も結び直さないように

事業領域(ビジネスドメイン)を定めるときには、
外部環境(社会経済・業界・消費者)から導かれる、
「社会が求めていること」と
内部環境(やりたいこと・できること)との接点を考えることが
大切です。

やりたい・できる、だけで事業を始めるのは、
キビシイ言い方をすれば学生レベル。

それらが、社会の求めているものとつながることで、
そこに初めてビジネスが生まれるのです。

ですから、この外部と内部との「結び」が
ドメインを定めるにあたっての必須事項。

前ばかり向いている人は、
まずこの結びを無視してドメインを決めてしまいがちです。
そしてそこに外部との「結び」が生まれたとしても、
前述のようにすぐに飽きて、
簡単にそれを手放してしまいます。

するとまた、
新しく生まれてくる内なるものと、外部(求められるもの)を
結び直さなければいけなくなります。

これを何度も何度も結び直すことのないよう、
すでに生まれている「結び」を大切にして、
その結びの上にさらに結びを積み重ねて、結び目を大きくしていく。
こうすることこそが、事業の成長です。

せっかく繋がった結び目。
安易にほどいてしまったり、
その紐ごと投げ捨ててしまうことのないよう、
地道に取り組んでいただけたらと思います。

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