会社は、競争に勝って、生き残る必要があります。
しかし、会社の「目的」は競争に勝つことでしょうか。
自社の存在する目的はなんだったのか、
経営者は、そのことを自分に問いかけ続ける必要があります。
事業には、「根」がある。
どんな事業も必ず、
そのスタートした瞬間があります。
何もなかったところから、創業者が、
何がしかの希望・野望・信念・理想を抱き、
商売を始めるその瞬間、
無から宇宙が生まれたビッグバンのように、
事業が誕生します。
そして創業者は、
その野望や信念や理想を実現するために、
営業に走り回り、新しい商品を作り出し、新しい仲間を募って、
朝から夜遅くまで働いて、
その実現のために奔走する時期があったことでしょう。
「こんな会社にしたい」
「こんな形で世の中に貢献したい」
そんな、
ビッグバンの瞬間から、姿を少しずつ変えながらも、創業時から脈々と受け継がれ、
未来へと一本の線でつながっているもの。
これが、会社の根っこです。
いつの間にか失われる「根」
ただ経営は、
常に厳しい環境の変化と競争にさらされています。
そうしている間に、当初の思いが
少しずつ忘れ去られてしまうことがあります。
創業時の思い、
顧客への思い、
仲間への想い、
そんなものが少しずつ、ずれていきます。
確かに冒頭に書いたように、
事業は生き残ってなんぼです。
しかし「生き残る」ことだけに集中しているうちに、
当初の事業の目的を失ってしまうと、
その事業は「競争」という名のただのゲームの参加者へと、
矮小化されてしまいます。
この瞬間その事業は、完全に当初の創業の目的や創業時の思いから切り離され、
宙に浮かんだ非常に不安定なものになってしまいます。
事業には、「根」が必要
このようにして宙に浮かんでしまった事業は、
その本来の目的を見失います。
見失う、というか、元々そんなものはなかったかのようになります。
するとその中から生み出される事業・戦略は、その生存競争の中で
「勝つこと」
「生き残ること」
それだけにフォーカスされることとなってしまいます。
生きるために勝つのか、勝つために生きるのか。
そんなことすら判然としなくなった状態で、
ただ、競争ゲームの中に身を置き、
勝敗をめぐって争うのです。
しかし事業は、
「なんでもよいから勝てることをやる」
というものではありません。
目的のない競争は、極めて近視眼的なものとなります。
そして近視眼的な視野で行われる事業は、
その競争に勝つことだけが目的となりますから、
その事業に対する強い想い・信念の欠けた
場当たり的なものになりがちです。
そして徐々に市場から信用・信頼・評価を失ったものへと
なっていってしまうのです。
その事業の「目的」とは、その事業の行く先のことです。
そしてその行先とは、
きっとその事業がこの世に誕生した瞬間にはあっただろう、
「何のために事業を行うのか」という意思なのです。
なぜ二代目・三代目で会社をつぶすのか
よく、「事業は三代目がつぶす」という話しを聞きます。
創業者が会社をつぶすことも普通にあるのですが、
創業者が立派に作り上げたものを、
二代目・三代目がその価値を浪費し、
つぶしてしまうという例は、本当にたくさんあります。
もちろんそれは、そもそも
経営者としての考え方が甘い、ということもあるのですが、
創業者はきっと持っていたであろう、
創業の目的・事業の目的を
失ってしまうことも、その理由の一つだろうと思います。
2代目は創業者が苦労した姿を見ていますし、
創業者の思いを直接聞かされているでしょうから、
その2代目に、事業の目的を引き継ぐ思いが明確になくとも、
なんとなくまだその残り香があるのでしょう。
ただ3代目ともなると、話しは違います。
事業の目的を引き継ぐ意志が希薄だった2代目からは、
何も伝えられることはありません。
そうしてその事業は根無し草となり、果てはつぶれてしまう、
ということになります。
これらのことからして、事業承継というものは、
ただ単に事業の内容を引き継ぐことを言うのではありません。
事業のビッグバン以来、姿を変えながらも連綿と受け継がれてきた、
その会社の根っこを次の世代に伝えること。
これが何よりも大切なのだろうと思います。
そしてその根っこを受け継いだ世代は、
その時代に合わせた形でその根のあり方をまた少しずつ変化させ、
その「根」の表す「事業の目的」の実現のために、
事業を展開していくことが求められるのです。