よく、「社員さんの意見をよく聞く」という経営者の言葉を聞きますが、
結構この意味をはき違えて、ややこしいことになっている経営者を目にします。
皆の意見を聞くことは大切ですが、
皆の意見を聞きすぎると、経営は前に進みません。
皆の意見を聞くことは大切。
まず、大前提として、
経営者は皆の意見を聞くことは大切です。
なぜなら、どんなにすぐれた経営者であっても、
その経営者一人で考えたことは、
あくまで自分一人の視野の範疇でとらえたものであって、
どうしてもその視界に収まりきらなかったものがあるからです。
その「目にとまらなかった」ものを完全に無視して経営を進めることは、
非常に危なっかしいこと、このうえなしです。
経営者が人の言うことを全く聞かず、
自分の独断と偏見だけで判断を下し続けると、
誰からも何も指摘されないので確かに自分の気持ちとしては楽かもしれませんが、
誤った意志決定をしてしまうリスクが高すぎますよね。
そのリスクの部分が見えている他の人たちからすると、
「あの経営者は、何を考えてるんだ」
ということになり、
社内の人たちからは、
「うちの社長は、現場のことなんか何もわかってない」
というような批判へとつながっていくのです。
ですから経営者はどれだけ自分が正しいと思っているとしても、
そこは謙虚になって、
他の社員さんの言葉に耳を傾ける必要があります。
そしてそれによって自らの考えを正して、
より精度の高い経営を行っていくことができると思うのです。
どれだけ自分と考え方が違うと感じる社員だろうと、
まだ何の実績もない社員だろうと、
その声を拾い集めましょう。
そんな人たちこそ、
自分とは違った視座と視点と視野で物事を眺めていますから、
自分だけでは考えもしなかった、思わぬ意見やアイデアを
見いだすことができるのです。
「意見を聞く」は「言うとおりになる」ではない
このように社員さんの意見を聞くことは大切です。
しかし「自分の独断でなく、社員さんの声を聞く」ということの目的が
ただ社員さんのモチベーションを高めることであったり
社員さんの機嫌をとることであったり
社員さんからいい人と思われたいということであったりすると、
とにかく彼らの意見を無為無策に取り入れようとしてしまいます。
しかし「みんなの意見を聞くよ!」
と言ったって、
全員が全員同じ考え・同じ価値観を持っているわけではありませんから、
全員の意見を取り入れることは不可能ですし、
全員の価値観を共通のものとすることは不可能です。
こんなことをしていると経営は迷走しますし、
一向に前に進まなくなってしまいます。
そして社員さん側も、
その「みんなの意見を聞くよ!」という言葉を曲解して、
自分の意見が採用されなかったときに、
「社長はみんなの意見を聞くと言ってるのに、自分の意見は無視した」
とか言い出したりして、
却って社員さんの不満の温床になったりするのです。
重ねて言いますが、
全員の意見を採用することは絶対不可能ですし、
全員の思いを実現することは絶対にできません。
「みんなの意見を聞く」というのは、当然、
「100%みんなの言う通りになる」
という意味ではないのです。
でもそんな風に受け止められてしまうことがあるのが、怖ろしいところです。
最終決断は経営者の仕事
全員の考えを採用することも、
全員の価値観を統一することも、
それが不可能なのであれば、
必ずその中から取捨選択を迫られます。
そしてその中から何を拾い、何を捨てるのか、
これを判断できるのは経営者だけです。
経営者が自らの持つ信念・軸に基づいて、
多くの人から集めた多くの意見を集約して、
結果として何を実行するのか、ということを決定するのです。
経営者にはそういった決断の瞬間が必要であり、
そのような決断をすることが、経営者の仕事でもあります。
なぜなら、方向性や方針を定めるのは、経営者の仕事だからです。
そうすることで、多様性はあるけれどもブレることのない意志決定を行うことができるのです。
当然のことながらこれは、
経営者自身が確固たる軸を持っているからこそ実現できることです。
そもそも経営者自身の考え方がブレブレであれば、
どれだけ衆知を集めたところで、
ブレブレな意志決定となってしまいます。
経営者は明確な信念をもって、
その信念にもとづいて一つ一つの意見を取捨選択するのです。
ですから、ある意見を採用しないのであれば、
なぜ採用しないのか、という明確な回答ができる必要がありますし、
採用したいけど、それは今はできないということなのであれば、
なぜ今できないのか、ということをちゃんと説明できる必要があるのです。
「皆の意見を聞く」とするのであれば、同時に、
「みんなの意見は聞く。しかしその中から最終的には経営者が決断をする」
これをはっきり社員さんに伝え、理解しておいてもらいましょう。
そんな意味で、経営者、特に小零細企業の経営者は、
ワンマン経営者でなくてはなりません。
もちろんそれは、誰の意見も耳に入れないという独裁的ワンマンではなく、
自分自身が責任を持って意志決定を行うという、
そういった意味でのワンマンです。
独断でなく他の意見をまずは聞き入れて、
そのうえで総合的に判断を下す。
そんな度量が経営者には求められます。
しかし一方で、社員さんの言葉に気を遣いすぎることなく、
違うものは違うとして、切り捨てる決断力、
ある意味こういったデリカシーのなさが必要なのだと思うのです。