事業承継というと銀行や税理士の提案として
『株式の引継ぎ』があがってくるわけですが、
承継すべきは株式だけではありません。
当然ですけどね。
昨今、中小企業の後継者がいないことで経営者の高齢化が進み、
社会問題化しています。
その中で自分の息子や娘が「自分が経営を引き継ぐ!」
と覚悟を決めてくれることは本当にありがたいことです。
事業承継とは何を承継すべきものなのか。
その辺りを2回にわたって、整理しておきたいと思います。
理念を引き継ぐ
まずは、会社の「理念」です。
現経営者、特に創業経営者は、
自分が経営してきた会社に相当の思い入れがあります(ないケースも散見されますが)。
ちゃんとした会社ほどそういった思いがちゃんと整理されており、
それが企業理念としてまとめられています。
この「理念」というものが、会社の根幹です。
会社はどんな考え方に従って事業に取り組むのか、
どんな事業を通して社会に貢献するのか、社員に報いるのか。
それが理念です。
これが根底に流れて、これまで経営されているわけですから、
これが正しく引き継がれていないと根底からひっくり返ります。
「理念」という形で成文化されていなくても、
必ず現経営者が大切にしている思いはあるはずです。
これを整理して承継者に伝えていきましょう。
ただ承継者にも
自分なりの大切にしたい想いや人生観がきっとあるだろうと思います。
これをないがしろにするのも良くありません。
ですからこれを機会に理念を見直し、
現経営者が考える今後も大切にして欲しいこと(会社として変わってはならないこと)と
承継者の考えをすり合わせて、
来るべき承継の日に向けて新たな理念を作っていくということも大切です。
経営資源・経営資産を引き継ぐ
さきほどお話しした「理念」は「会社」の根幹をなすものですが、
経営資源とは「事業」を行っていく上での根幹をなすものです。
これには目に見えるものと目に見えないものがあります。
特に目に見えないものを引き継ぐ意識が大切です。
なぜなら、目に見えるものは勝手に引き継がれますから。
目に見えない経営資源に
「情報」
「ノウハウ・技術」
「社風・文化」
があります。先の「理念」も「社風・文化」の一部ですね。
会社にはどんな経営資源が蓄積されており、
それがどんな強みや独自性を生み出しているのか。
これらの強みや独自性が会社が維持発展していくための生命線となってきます。
これも現経営者が承継者と話し合い、
次の時代に向けて、自社の強みの活かし方や
自社の存在意義を踏まえた事業展開を考えていきましょう。
次の事業を展開するのは、承継者です。
承継者の考えを大切にして進めていくことが
とても大事なことであると、私は考えます。
現経営者による過剰な押し付けは、承継者の足かせとなります。
変えてはいけないものと、変えるべきものを、しっかりと区別しましょう。
世代が違うことで、
違った視座と視点からの新たな展開が生まれてくるでしょう。
もちろん、承継者の事業展開があらぬ方向にいかないよう、
現経営者が自身の経験と蓄積を元に、
しっかりとガードレールの役割を果たしてあげてください。
社外信用を引き継ぐ
社外との信頼関係や信用は、
現経営者や先代が築き上げてきたものです。
だからこそしっかりと承継者と共に顔を合わせる場所を設けて、
「今後ともよろしくお願いいたします」
ということが大切だと考えます。
やはり承継者のことは外部の人間はよくわかっていないし、
そもそも承継者は若い(ことが多い)ですから、
外部の人間としては不安になる部分は当然あります。
だからこそ、現経営者が
「ちゃんと私が後ろから支えるから大丈夫ですよ」
という姿勢を見せることが安心感の元となります。
ただし、承継したからには、
先代はいらん口をはさむべきではありませんよ。
承継者のプライドを傷づけることをしてはいけませんし、
承継者の良さが生きてきません。
先代はあくまで見えないところでそっとサポートしてあげてください。
表現はよくないかもしれませんが、
「裏から手を回しておく」くらいの存在でちょうどいいですし、
その「裏から回す手」が承継者にとって何より力強い支えとなります。
親子だからこそ難しいこと。
親子関係の中では、子がいくつになったとしても、
親から見ればいつまでも子供です。
逆に子供からすれば、親というのはいつまでもうるさく感じるものです。
日常では特に問題なく仲良くなっている間柄でも
いざ踏み込んだ話しとなってくると、親子だからこそなかなか
話しが前に進まないことになるケースも多くみられます。
そんなときは、事業承継のことをちゃんとわかっている
信頼できる外部の人間に進行役・仲介役になってもらいましょう。
多くの場合顧問税理士ということになってくるかと思いますが、
「事業承継なんて株だけ引き継いどけばええやん」
と考えているような税理士も少なからずおります。
そんな場合は残念ですが、ほかのちゃんともののわかった方に依頼しましょう。
承継者のカラーを活かしつつ、引き継ぐべきことをスムーズに引き継ぐ。
これがとても大切なことなのです。
今日はここまで。続きは次回「事業承継で引き継ぐもの②」を、明日アップいたします!