残高試算表に、大きな価値はない。

大切なことは、細部に落ちています。

税理士という仕事に身を置いて、
「正確な残高試算表」の大切さをさんざん教育されてきたのですが、
年々自分の中で、その価値は落ちていってます。
今日はその理由について。
価値が落ちているというだけで、無駄なものとはいってませんので、そこは誤解なきよう。

残高試算表の存在意義

もうこの業界に入って20年以上、独立してからも15年以上が経過しますが、
その前半10年くらいは結構、
顧問先に残高試算表をわかりやすく説明する、ということに
心血を注いできました。

残高試算表や決算書が読めない経営者の方は今でも非常に多いですから、
それが基本であることは変わりません。
そんな意味で今でもやはり大切で、
決して無意味なものではありません。

しかし今、顧問先と毎月お話しをする中で、
残高試算表の話しをする時間はどんどん減っています。
2時間お話しの時間があるとすると、本当に10分~15分程度。
全体の10%前後といった感じです。
減っているということは、
自分自身の中でその価値が下がっているということでもありますし、
なぜ価値が下がっているかというと、
顧問先の求めるものや興味があるものが、
もっと他にあるだろうと思うからです。

それがどういったものか、説明したいと思います。

残高試算表は過去のもの

残高試算表は、帳簿を整理してできあがっていくものです。
ですからどこまで行っても過去のものでしかありません。
会社にとって、経営者にとって、必要なのは言うまでもなく
過去ではなく、現在と未来です。

もちろん結果分析は必要ですから、
その材料としては大切なものですが、
過去の反省材料にしたら、もうそれで終わりです。
過去にフォーカスをあてて、「こんなんだったねー」ということよりも、
それを踏まえて、
次どうするのか、
今どうするのか、
これを考え、即座に行動に移していくことの方が遥かに大切です。

経営者にとって必要なのは、「良い会社」を作ること。
試算表をいくら眺めていても、
それによって良い会社になっていくわけではありません。

本当に分析すべきは、試算表の外部に。

過去を眺めて、それを将来に活かすためには、
比較対象が必要です。
その比較対象としてもっとも大切なものは
「計画」であり
「目標」であり
「仮説」です。
そして試算表の比較対象となるためには、
それら仮説が数値として作成されたものである必要があります。
この「数値」というのが大切です。

しかし本当に必要な数字は、
試算表に表面上見える程度のものではありません。
会社が分析すべきは、もっと細部であり、
その数字を作るに至った過程なのです。

残高試算表で表される数字は、
それまでの経営活動による結果です。
ですから、その数値が生み出されるまでに至る「活動」の方を分析しないことには、
具体的に何を改善すべきかは見えてこないのです。
そしてそういった細かい数値は、
自身の感覚とは大きなズレがある場合がしばしばです。

こういった「細部」のうち、私がよく大切にしているものは、
「一人一時当たり粗利益」や、
「商品別・顧客別・店舗別の売り上げ動向」です。

先日とある製造業の経営者に、試しに、
ある特定の商品の一人一時間当たり粗利益を算出してもらいました。
これは毎日製造に関わる社員さん一人一人が、
どの商品のどの工程にどの程度時間を要しているか、という情報が必要ですので、
結構大変です。
ですが、毎日5分程度そのための時間を作成して、
みんなにスプレッドシートに書き込んでいただいたら出来ることです。
そして出た結果が、なかなかにヒドイものでした。
社長自身も、それほど儲かっていない仕事だとは思っていたようですが、
その想定をはるかに超えてきた結果で、驚いておられました。
と同時に、こうやって具体的に数値で検証することの必要性を
感じていただくことができました。
この作業を行っていなければ、永久に見える数字ではなかったわけですから。

そしてその「残高試算表からはつかみきれなかった」問題を把握することで、
次に打つべき手が見えてくるのです。

どこに問題が潜んでいると考えられるのか。
この問題発見能力は経営者にとってとても大切な能力です。
その能力でもって、
「ここに問題がありそう」と発見された部分を、
数値でもって分析して問題点を具体的にあきらかにし、
数値でもって目標をもって改善していくことで、
少しずつ利益が生み出せる会社になっていくのだろうと思います。


確かに、試算表は大切です。
そこから漠然とした違和感を感じ取り、
問題解決につながることも大いにあります。

しかし本当の問題点はそれをさらに細分化したところに転がっています。
どんな行動をどのようにすれば、
もっと売り上げはあがるのか、
もっと粗利益はあがるのか、
もっと収益性はあがるのか、
もっと楽に利益が出るようになるのか。

そこにフォーカスして、
損益計算書を分解しましょう。

その分解の結果、測定すべき数値が判明したら、
あとはそれを測定して分析するだけです。
「分析」といっても、それほど大層なものではありません。
必要な情報・データを数値で集めて、
それを集計するだけのことです。
面倒なことではありますが、
きっとそこから確かな改善点が、見えてくるだろうと思います。

逆に、将来に活かされないデータ収集は、
即座にやめましょう。
時間のムダでしかありません。
上司が目を通しておわり、というだけの日報などが、これにあたります。

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