今回は、私も業務として携わっているM&Aについて。
その中でも特に小規模企業のM&Aについて、お話ししたいと思います。
日本の中小企業
日本は全事業所のうち99%以上が中小企業であるといわれています。
そして全労働人口の7割弱が、この中小企業で勤務しています。
そんな意味で日本の経済の基盤は中小企業が支えていると言っても過言ではありません。
比較的最近では
「日本の非効率は、多すぎる中小企業が生み出している」
という論もあります。
内閣が変わったことでどこかにいってしまいましたが。
収益性という意味でそれはその通りでもあるので
これは真摯に受け止めるべきだとは思いますが、
この収益性の低さは中小企業によるものというばかりではなく、
大企業が自らの非効率を中小企業に押し付けてきたという側面もあろうかと思います。
これは今回のブログの主題ではありませんので、おいとくとしまして、
いずれにしても日本には多くの中小零細企業があり、
そこで多くの人が働いていることは事実です。
そしてそんな小さな事業所でも、
キラリと光る技術を有していたり、
地元に愛されるお店であったり、
地域ひいては日本においてなくてはならない存在でもあります。
その会社の経営者や社員さん自身がその事実を認識しているかはわかりませんが。
日本の中小企業の承継問題
この中小零細企業が今、
承継者の不足でどんどんと消えゆこうとしています。
正直すべての企業が残る必要があるかというと、
そういうことではありません。
しかし、承継者不足は深刻な事態で、
本来消えて欲しくない、消えてはならない事業所が、
ただ「承継者がいない」という理由だけで消えていく。
これは由々しき事態です。
東京にあった岡野工業という会社は「金属の精密深絞り」で極めて高い技術をもつ
有名な零細工場でした。
蚊の針と同程度の太さの「痛くない注射針」を開発した会社です。
もう何年も前になりますが、
この会社が承継者がいないということで廃業してしまいました。
また日本のチョークの会社が承継者がいないということで、
韓国の会社に買い取られてしまいました。
チョークは日本での需要はどんどん縮小していますが、
世界に目を向けると必要としている国や地域は広がっており、
グローバルな視野に立ったときには非常に魅力ある会社でした。
日本経済のことを考えたときに、
こういった潜在能力を持つ会社は
日本の会社や企業家が事業継続のために手を挙げるべきだと思うのです。
ただ日本にM&Aの文化が根付いていないというだけのことで、
みすみすこのチョーク会社は国外資本のものとなりました。
この会社を買い取った国外企業のことをどうこう言っているわけではなく、
それを日本国内で買い取る人や会社が現れなかったということ自体が問題なのです。
M&Aのイメージ
ただM&Aというとあまりよろしくないイメージを持たれていることがあります。
特に日本ではそのイメージが強い印象があります。
ただ、M&Aは消えるべきでない企業の技術と
そこで働く人の雇用の場を守るという意味で、
非常に意味深いものです。
ですので、M&Aはそんなに怪しいものととらえるものではなく、
会社の出口戦略の一つとして極めて重要なものなのです。
しかし、小零細企業のM&Aには血の通った思いが必要です。
ただ単に、その会社を買ったら儲かりそうだから、ということではなく、
「この会社はこんな技術があり、こんな経営資産があり、
こんな企業文化を持っているので、こんな会社と一緒になるべきだ!」
という思いがあって、それが実現されてこそ、
その会社が残っていく本当の意味があるのではないかと思います。
最近はこういった状況にようやく国も重い腰をあげ、
様々な施策を打つようになってきました。
しかし、このように「儲かる市場が生まれた!」という認知がされてしまうことで、
多くのわけのわからないM&A仲介会社やコンサルが乱立し、
品のない営業と、顧客のためにならないサービスが提供される、
という問題が発生します。
国が制度設計をし始めたことで、M&Aは認可制のようなカタチになりましたが、
事実上だれでも登録できるようなものですので、
あまり実効性のあるものとは思えません。
これからM&Aを考えられる方は、
誰にそれを任せるのか、ということを真剣に考えるべきだろうと思います。
金融機関だから信用できる、などというのも非常に危険です。
まだまだ金融機関が独自のサービスとしてM&Aにきっちりと取り組んでいるところは少なく、
結局は提携しているM&A仲介会社に丸投げをするようなところも多い状況です。
その会社が心ある会社であれば良いのですが、残念ながら必ずしもそうではありません。
私も自分自身がM&Aの経験を積む前に安易にその会社の取引銀行にお願いして、
大変な思いをしたことがあります。
M&Aに携わるには、高度な知識と経験が必要ですが、
それ以上に必要なことは、
その経営者の思いを丁寧に汲み取り、
どうあることがベストであるのかを共にに考えながら、
売り手と買い手双方が最も幸せな状態を創り出すという、
そこに関わる人の純粋な思いの強さです。
どこの会社とはいいませんが、
ノルマをクリアするために企業売却を早期に片付ける、
などというところに任せるわけにはいかないのです。
本当に信用できる人を通して、信用できる人に任せる。
それを大切にしていただけたらと思います。
中小M&Aの担い手は税理士であるべき
私は「一般財団法人日本的M&A推進財団」という団体に所属し、
これらの社会問題解決のためにM&Aにかかわっています。
この団体はM&Aを、通常いうところの
「Merger&Aquisition」(買収と合併)ではなく
「Marrige & Alliance(結婚と協業)」と定義づけして
事業承継問題に取り組んでいる団体です。
この部分に強い共感を覚えたため、この財団に加盟させていただいた次第です。
日本には上場している企業も含めて多くのM&A仲介業者が存在します。
しかし小零細企業のM&Aは型にはまっているものではないため、
非常に手間がかかります。
だけれども会社規模と資金力がそれほどあるわけではありませんから、
これら大手が求める成功報酬を支払うだけの体力はありません。
小零細企業だけをM&Aの案件として取り組むことは、
そのM&A事業者として非常に収益性が低いものとなってしまうのです。
ただ唯一、その問題をクリアできる存在があります。
それが税理士です。
税理士はそれぞれの顧問先に深くかかわっているため、
その企業の状況を最もよく理解しています。
また長い期間をその会社と共にしておりますから、
その会社に対する思い入れも非常に強いはずです。
その会社を一から把握する必要がなく、
正しくその会社をアピール・発信することができる。
それが税理士です。
しかも税理士はM&Aという収益に依存することなく、
その会社が存続すれば顧問契約の継続ができるという利点があるため、
M&Aの報酬をそれほど高額に設定しなくても
事業の柱としてやっていけるのです。
日本の小零細企業の承継者不足による減少を食いとどめるためには、
心ある税理士がM&Aにもっとかかわっていく必要があるだろうと思います。
会社の財務状態や企業価値に関わる問題ですので、
税理士の能力を有するのであればノウハウを身に着けることは十分に可能です。
前述しました通り、残念ながら世の中には、
「お金になる」という理由でこのM&Aの事業に群がってくる人や会社が
多いということも現実です。
税理士はM&Aの後も顧問として継続することが多いわけですから、
より、その会社のことを考えたM&Aを実践することができるとも思います。
だからこそ一人でも多くの税理士がM&Aのプレイヤーとなって
活動する必要があると思うのです。
このブログを見ている税理士はそれほど多くはないでしょうが、
日本の社会問題を適切に解決するため、
心ある税理士の方、ぜひともM&A事業に関わっていただけたらと思います。
事業が消えると、雇用が消え、そんな地域からは人が消えます。
地域を活性化するには、単発のイベントなんかよりも、
一つの事業を残すことの方がよほど大切なことだろうと思うのです。