少し前から、山口県阿武町の4630万円ご送金問題が、
様々なメディアで取り沙汰されていました。
今回はそれにまつわる、実務には役に立たない税務雑学です(笑)。
違法に手に入れた所得の税金。
このたびの誤送金問題、
容疑者も悪質で、
町の手続きも杜撰で、
そんな理由から、
もうテレビをつけたら
情報番組でもニュースでも、
いつまでもこの話しばかりでしたよね。
情報番組はもともと全く見ませんし、
そもそも情報番組は
視聴者に有益な情報を提供することを目的にしたものではないので、
そこに全く期待はしていませんが、
ニュースを見ていても毎日けっこうな尺で
いつまでもこの話しが取り沙汰されていたので、
ちょっと辟易してました。
他にももっと伝えないといけない大切なことがあるだろうと・・。
そしてそんな私が、この事件をネタにブログを書くという(笑)。
今回のこの事件は、
容疑者が総額の9割以上を送金した決済代行業者の口座を差し押さえたことで、
そのほとんどを無事回収できることとなったわけですが、
もしこれが回収できず、容疑者の目論見通り
「ギャンブルに全額つぎ込んだから返還できない」
ということになって、
不当利得返還請求をしても返済を免れるようなことになっていれば、
どうなっていたか、というところが大きな論点です。
もちろん阿武町は回収できなくて大変なことになっていたわけですが、
持ち逃げした容疑者は持ち逃げ得で終わっていたのでしょうか?
そんな訳ではありません。
こんなところにも、税金は追いかけてきます。
このケースだと、持ち逃げした4630万円は全額、
一時所得として課税されることになります。
使っていようが、使ってなかろうが、それは関係ありません。
所得税では、
「その収入の基因となった行為が適法かどうかを問わない」
と定めていますので、
その取得理由が合法だろうが違法だろうが、
所得税はかかる仕組みになっています。
極端な話し、泥棒でも、
適正な納税をするならば、
泥棒によって得た所得を
確定申告に含めて納税しなければならない、
ということですね。
まぁそんな泥棒はいないわけですが。
ですからもし今回、町が取りっぱぐれて
完全に持ち逃げされたという結果になっていたならば、
所得税・住民税・社会保険含めて、
ざっと計算すると、900万近い納税が、
容疑者に発生するということになります。
これだけメジャーな存在となってしまい、当然国税の知るところとなっていますから、
この納税は逃れることができないものとなっていたことでしょう。
自己破産しても・・
使い切った、ということが本当なのであれば、
もちろんそんな税金を支払うことはできません。
それでは、自己破産したらどうなるか、
ということですが、
ご存じの方も多いかと思いますが、
税金の未納は残念ながら自己破産の対象とはなりません。
自己破産をしても、納税義務から免れることはできないのです。
ですからこのケースであれば、
発生するおよそ900万の税金は、
一生容疑者についてまわることになります。
しかも当然、納税できない部分に対しては、
延滞税が課されます。
その利率は令和3年現在は、
納期限から2ヶ月以内の部分は2.5%、
それ以降は8.8%となっており、
結構な高利で延滞税が増え続けることになります。
10年以上放置したら、納税額のトータルは
およそ倍に膨れ上がっている、ということです。
延滞税の時効は5年ということになっていますが、
当局はちゃんと督促や差し押さえなどを行ってくるので、
時効は事実上ありません。
そして最終的に本人が亡くなって、
その相続人が相続を放棄するまで、
延滞税はたまり続ける、ということになるのです。
まぁまともな生活はできなくなりますよね。
今回の容疑者は、そもそもまともな思考の人ではなかったので、
そんなことを気にせず生きていくタイプかもしれませんが。
知識がないことの恐ろしさ
今回のことがあって、上記のような考えを巡らしているうちに、
以前あった、とても腹立たしいケースを思い出しました。
弊社の顧問先が多額の借入金を背負っていて、
それでも技術力はある会社でしたから、
会社の出口として、M&Aを模索していました。
そのM&Aについて当初、
M&Aの某大手仲介業者(上場企業です)と
アドバイザリー契約を結んでおりました。
成功報酬は最低2,000万。
そして社長所有の工場不動産を買い手に引き渡すにあたって、
社長に1,500万ほどの納税が発生する、
という状態でした。
そもそもが1億円以上の借入金がある会社でしたから、
それを良い条件で買い取ってもらおうとは経営者も思っていません。
せめてその仲介業者への報酬と納税額のトータル3,500万で会社を売ることができて、
それでペイできればOKという考えでした。
その条件でもなかなか買い手が見つからない中、
このM&Aをなんとか成約させたいと思ったその某大手仲介業者が
とんでもない提案をしてきたのです。
「ゼロ円でも、どこかの会社に引き取ってもらいましょう。
1億以上の借金が3,500万になるんですから、それでいいでしょう」
なんという暴言。
売り手企業とその経営者の後の生活のことなど、みじんも考えていない。
成約できて成功報酬がもらえればそれでOKという発想です。
しかも、
2,000万の仲介業者への報酬は自己破産をすれば支払義務がなくなるとしても、
前述の通り税金の1,500万円は、経営者の手元に残り、
その後の年金生活の中からその支払をしなければならないのです。
M&Aのプロが
「税金は自己破産の対象外」
という情報を知らないわけはありません。
お年寄りの経営者をだますような手口に、
社長も私も怒り狂いました。
そしてその後、なんとかその仲介業者とは契約解除することができました。
経営者が
「税金は自己破産をしても免れられない」
ということを知っていましたから、
そんな口車に乗ることなく事なきを得ましたが、
もしその事実を知らなくて、そのまま話しが進んでいたとしたらと思うと
ゾッとします。
(まぁ成約までに私の耳に入って、そこでストップをかけられたでしょうが)
ですから、知らないということは怖ろしいことです。
よく言うことですが、
法律は国民の味方ではなく、
それを知っている人の味方なのです。
自ら学ぶこと、そして
適切なアドバイザーを身近に置いておくことの大切さを
改めて感じる、
そんな事件でした。
そしてこの腹立たしい事件を思い出させてくれた、
今回の持ち逃げ事件でした。
M&Aの業界は近頃、小零細企業をターゲットにしたものも含めて、
にわかに活気づいています。
儲かる業界には有象無象が集まってきます。
ずいぶんと怪しい業者が増えてきたように思います。
そんな中、誰にアドバイザーとなってもらうのか。
これは非常に重要です。
大きな会社だからといって、信用できるわけではありません。
むしろノルマに追われて、売り手の不利益な契約をムリに進めるような話しが、
後を絶ちません。
銀行に相談しても、多くの場合は
銀行から外部のそういった大手仲介業者に外注されることがほとんどです。
もしM&Aを考えるようなときにも、
信用のできる筋から信用できるアドバイザーを紹介をしてもらうことを
オススメします。
大手かどうか、ということではなくて、
携わってくれる人がどんな人物なのか、
ということの方が遙かに重要なのです。
最終的に全然別の話しになってしまいましたが、
今日は税務の雑学と、私の怒りの発散でした。