闘わない人生、闘わない経営

私が影響を受けたマンガの一つ、「バガボンド」。
その中の一つの名言、「殺し合いの螺旋から、俺は降りる」というものがあります。
今日はこの言葉について。

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「螺旋」からの解放

今は、私とパートさん2人という体制で、
「超小規模会計事務所の理想の姿を目指す」
ということをスローガンにして、事務所運営を行っています。
しかしかつては、
「30人を超える大規模な事務所を作り上げる」
という野心のもと、経営をしていました。
もちろん当時から
「自分の仕事を通して少しでも世の中に貢献できれば」、
という思いはあり、その時から今に至るまで
座右の銘「一燈照隅」は変わりません。
しかしその一方で、
「ビジネスとして成功してやる」
「大きな事務所に成長させなければならない!」
といったようなものが
結構な割合で頭の中を占めていたように思います。

もちろんこれ自体、なんら悪いことではありません。
さらなる高みを目指して自分自身を鼓舞し、磨き上げていく。
その行為自体はとても素晴らしいことだと思います。

しかし今から6年ほど前、
私は心のバランスに支障を来たして、
事務所をいったん解体するような事態となってしまいます。
体を壊すくらいまで働いていて、
結果多くの人に迷惑をかけることになったのですが、
この日から私の生活は一変します。

仕事から解放され、ゆったりとした時間の流れに身を置き、
子供を幼稚園に送り届ける日々。
自分の心の中が健やかになっていくのを感じる毎日の中で、
私の頭に飛び込んできたのが、冒頭の言葉でした。

「殺し合いの螺旋から、俺は降りる」

出展 バガボンド 井上雄彦 著

最初、これを読んだときは、正直あまりピンと来ていませんでした。

「殺し合いの螺旋から、俺は降りる」

これは、バガボンドの登場人物、辻風黄平(宍戸梅軒)による言葉です。
バガボンドは、言わずと知れた宮本武蔵を題材にした超有名なマンガです。
この主人公である武蔵も登場人物の一人辻風黄平も、
人より強いことを証明するために剣のみに生きるという人物でした
(辻風は鎖鎌でしたが)。
いろんな意味でのレベルの違いはあれど、
以前の私は同じように「見えない敵」と常に戦っている状態であったように思います。
しかし辻風黄平は武蔵との闘いにやぶれ、
その時にこの言葉を口にするのです。

闘いにはやぶれてしまったものの、
自分が大切に思い、自分を大切に思ってくれている人の存在に気づき、
その家族を守るために生きることを決意したこの言葉からは、
「他人との比較・争い・闘い」からの解放感と、
家族とともに生きるという覚悟が感じとれます。

闘いを追い求めたつもりはなくとも、
結果としていろんな目に見えない「敵」と闘い続けてきた私が、
そこからドロップアウトし、
「自分にとって幸せとはなんなのか、一番大切なものはなんなのか」
ということを問い直しているときに、
以前はピンとこなかったこの辻風黄平の言葉が
体の中に染みわたっていきました。

子供を幼稚園に送り届けた帰り道、
秋の晴れ渡った空を見上げ、
「ああ、世界って、こんなにキレイだったんだ」と
心の底から思いました。

闘わない経営

そうは言っても経営者ですから、
日々経営はしていかなければいけません。
経営は自社の仕事を通して結果を出さねばならないものですから、
ある意味闘い続ける必要があるものです。

しかし、この「闘い」にはいろんな捉え方があります。
一般的に闘いとは、他人や他社と同じ土俵にあがり、
相手よりも優位に立ち、相手を追い落とす行為です。
つまり闘いは
「他人と同じ土俵にあがる」ことで始まる
ということです。
逆に、同じ土俵にあがらなければ、
「他人」との闘いは存在しません。
そこには「自分との闘い」だけが残ります。

他人や他社なんて関係ない。
自社は自社なりの独自性を徹底的に深めていって、
その独自性に共感してもらえる顧客に対して商品サービスを提供していく。
これによって企業は、顧客との間に
極めて優良な関係を築き上げることができるようになります。

規模の大きい会社や規模を求める会社は
シェアの奪い合いですから、そういうわけにもいきませんが、
小零細企業ではこれが可能です。

自社独自の世界観を作り上げ、
その世界観を顧客と共有していくことでビジネスを行っていくことができれば、
その土俵の上には自分以外誰も存在しません。
結果誰とも比較する必要もありませんし、
誰とも競争する必要もないのです。

そもそも小零細企業は、経営資源が乏しいことからも、
大企業と同じ土俵で闘うことはいずれにしても困難です。
だからこそこの
「独自性に生き、独自性で顧客と向き合う」
ということが小零細企業の生きる道であり、
清々しい気持ちで経営を続けることのできるポイントなのではないかと思います。

ただ、同業他社や社会環境を研究する姿勢は必要です。
これは相手より優位な立場になるために比較する、ということではなく、
自分自身の独自性を磨き上げるために
そのポジションを知ることが必要だからです。
また同業他社にも、いい部分はたくさんあります。
こういったものはどんどんと、積極的に取り入れていけばいいのだろうと思います。

そして「独自性」の世界に生きることは、
決して、楽して自分勝手に生きるということではありません。
人との違いを生み出すには相当の努力が必要ですし、
それ相応の覚悟が必要です。

小さな会社を営んでいる方は、
ぜひ自分なりの小さな世界観を作り上げて、
他社と「奪い合う」という感覚でなく、
その世界観に集ってくれるファンを増大していく仕組みを
作り上げていただけたらと思います。

当然のことながら、私もその道半ばです。

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