最近、政府による働き方改革の推進や、コロナ感染拡大で
「仕事の場所を選ばない」、という人が増えていく中、
副業を持つということが一般的になってきました。
それと同時に「副業による節税」などという情報が出回っております。
私個人的には、結構ナゾな解釈です。
副業が一般化することの是非
働き方改革は、政府による呼びかけであることから、
なんだかあまりプラスのイメージを持たれていないように思います。
しかし、その趣旨は
それぞれが働く時間や場所などを自由に選択できる社会を目指すということで、
これまでの、「労働は時間の切り売り」という発想から脱却しようとするものです。
これを悪用する会社が出てきて、
残業代のかからない労働がはびこってしまう、
ということに対する危惧ばかりが取り沙汰されていますが、
労働を時間ではなく成果で評価する、ということは、
正しい方向なのではないかと思います。
制度側の問題ではなく、運用側の問題でその制度を批判していると、
世の中は一向に良くなっていきませんので、
もちろん問題が全くないとはいいませんが、
私はこの「働き方改革」について、とても前向きな制度であると評価しています。
そして副業についても、
これまで日本では、あまり良しとはされてきませんでした。
個人は、一つの会社に集中して勤務するのが当たり前、
という発想です。
つまり他の仕事に気を取られて、勤務先での仕事を疎かにするな、
という考え方ですよね。
しかしこれは、
「会社から外に出ても、その会社のことを考えろ」
「会社から外に出ても、その会社のためのスキルアップをしろ」
と言っているに等しくて、
これこそが、残業代のかからない労働の温床になっていると言えます。
会社から一歩外に出れば、その人は自由であるべき。
そう考えると、副業を持つこと自体、
批判される理由などどこにもありません。
「本業の仕事中に、副業のことを考えてしまうからダメ」
というのは、
「本業の仕事中に、遊びのことを考えてしまうのはダメ」
と同じ事であって、
副業に問題があるわけではなく、
仕事に集中していないことに問題があるのです。
ですから、副業が推進される社会については、
私は大賛成。
むしろその、本業とは異なる仕事をすることによって生まれる仕事の幅が、
本業にも生きてくるんじゃないかとさえ思います。
副業の節税スキーム。
さてそれでは副業は節税になるのか、
という話しです。
この話しをする前に、知識として
「事業的規模」という文言を知っておいていただく必要があります。
そしてその副業が、「事業的規模」であるかどうかによって、
その取り扱いは大きく変わります。
それが「事業的規模」であれば、その事業は税金の計算上、
①事業所得
そうでなければそれは
②雑所得
として区分されます。
そしてこの二つにはいろんな違いがあるわけですが、
その中で今回のテーマに関わる大きな違いは、
①事業所得であれば、その事業でもし赤字が出たときに
その赤字は他の所得(例えば給与)と相殺することができて、
②雑所得であれば、その赤字は相殺ができない、
ということです。
そして、副業の節税スキームは、この①を利用したものです。
まずその副業が事業的規模であるとして、
事業所得に区分します。
給与と違って事業所得の計算は、それにかかった必要経費を
マイナスすることができます。
そしてとにかく必要経費(と思われるもの)を集めてきて、
事業所得を赤字にしてしまい、
それを給与所得と相殺する確定申告を行うことで、
節税をはかる、というスキームです。
この話しを聞いたとき、
人によってその考え方は二種類にわかれます。
なんとか税金をちょろまかしてやろう、と考えている人は、
「それはうまいやり方だ、なんとか自分もそれに乗っかろう」
と考えるでしょう。
そして社会正義を前提にする人は、
「それは何かおかしな話しだな、そんな極端なことはやめよう」
と考えるだろうと思います。
副業節税のおかしさと、リスク
まず私の考える結論としては、
やはりそれはおかしな話しだな、と思うのです。
なぜなら、副業だろうとなんだろうと、
税金の計算上控除できるのは、「必要」経費だからです。
必要じゃない経費は引けませんし、
そもそも経費じゃないものは引いてはいけません。
その事業を行うために「必要」だった経費を差し引いて
結果として毎年、いつまでも赤字が続くようであれば、
それは、そもそもやめた方がいい副業ということになります。
やればやるほど、儲からないわけですから。
なので、
「副業で赤字を出して給与と相殺して節税」
というのは、原理的におかしいのです。
一時的に経費がかさんで赤字になる年もあるでしょうが、
継続して赤字であり続けるけどやめない、というのは、
本来必要経費ではないものを経費にブチ込んでいるとしか考えられないのです。
税務署だってその辺はわかっています。
そんな申告に対していちいち税務調査がある可能性は低いでしょうが、
調査で経費が認められないというリスクは間違いなくあります。
そしてそもそも、リスク以前に、
本来経費でないものを経費にしない、という当たり前のことなのです。
事業的規模とは?
そしてもう一つのリスクは、
その副業が果たして『事業的規模」なのかどうなのか、
という話しです。
この「事業的規模」というのは非常にわかりにくい考え方ですが、
その行っている事業が、
社会通念上実質的に事業的な規模で行われているかどうか、
で判定されます。
なんの解決にもならない定義ですよね(笑)。
一般的には、
・ちゃんと利益が出ているか、
・その事業が生活を支えているか、
・反復継続して行われているか、
その他いろんな要素を勘案して判定されます。
もしその副業が「事業的規模」でないと判断されると、
その副業は事業所得ではなく雑所得に区分され、
そもそも赤字を他の所得と相殺できなくなってしまうのです。
毎年赤字を垂れ流して、生活に全く寄与していない業務が、
果たして「事業的規模」と呼べるのか、
という話しですね。
そんなリスクがあるということは強く理解しておきましょう。
今後の税制の動き
ただ、事業的規模の判断は、
どこまで行っても非常にあいまいです。
相当期間、赤字が続いているとしても、
その副業をしている人から
「今は赤字だけれども、これは絶対に将来大きな黒字になるし、
それだけのプライドを持って、時間をかけてやっているんだ!」
と主張されれば、
一概に「事業的規模ではない」とされないことも
考えられます(必ずそう判断されるわけではありません)。
そうなると、国税サイドとしては、
これまであいまいにしてきた「事業的規模」の線引きを
明確にした方が、国にとってメリットが大きいのでは、
と考えるようになります。
そして先日(2022/8/1)、
「所得税基本通達の制定について」の一部改正
についてのパブリックコメント募集が開始されました。
内容は、
「副業の収入が300万円以下のものは原則雑所得とする」
というものです。
これに当てはめられると、
相当範囲の副業が、雑所得になってしまいます。
現時点ではまだこの通達は制定されていませんが、
少なくともそれだけ国税は、
この点に目を光らせている、ということです。
ちなみにこの通達改正が実行されると、
令和4年分の所得税より適用されますので
今後の動きに要注意です。
確かに副業は、それが雑所得であるとしても、
給与所得だけでは認められなかった経費を必要経費として
収入からマイナスすることができますから、
その分については節税ともいえます。
そんな意味で適正に処理をする分には、
何も問題はありません。
しかし経費はあくまで「必要」経費。
領収書があれば何でも経費なんてことは絶対にありません。
それをわかってやっているならば、
それは節税ではなく、脱税。
良心に従って、適切に申告してくださることを、
切に、願います。