比較的メジャーな法人の節税策の一つに、
「社宅」があります。
今日は珍しく、節税の話しをひとつ。
社宅節税の詳細
社宅を利用した節税は、
法人の経営者が自宅の賃貸を法人契約にするものです。
それによりその賃貸料の大部分を、
法人の経費とすることができるのです。
まずそもそも法人契約ですから、賃貸料は法人が負担することになります。
そのうえで、その大部分を経費とするための条件は、
その一部を「賃貸料相当額」として、
賃借人である経営者本人が負担する、ということです。
それではその負担する「賃貸料相当額」はどのように計算されるかというと、
次の(1)~(3)の合計額となります。
(1)建物の固定資産税課税標準額×0.2%
(2)12円×(その建物の総床面積(㎡)/3.3㎡)
(3)敷地の固定資産税の課税標準額×0.22%
この計算式の意味を考えていただく必要はありませんが、
だいたい通常の家賃の10%~20%くらいになります。
ということは残りの80%~90%が会社の経費に落ちるということです。
しかも社宅に係る水道光熱費は、
本来入居者である経営者が負担すべきですが、
①その額が友情利用した場合の料金程度であること
②各部屋にメーターがないなど、各人ごとの利用額が計算できない
この2つの要件を満たせば、
全額会社負担として経費にできます。
よっぽど華美なところに住んでいない限り、この制度の活用は可能ですから、
節税効果はわりと大きくなります。
なぜ見直しされないのか。
本来の費用負担のあり方から考えても、
その節税効果から考えても、
これは、取り扱いの内容を見直すべきものだと思います。
しかし実際には国税当局がこの見直しに動く気配はありませんし、
今後も見直しされる可能性は低いと考えられます。
なぜなら、この社宅の賃料に関する取り扱いは、
国税職員の職員寮の賃貸料を前提にして考えられているからです。
上記の「賃貸料相当額」の計算式を、
もっと高額な金額が算出されるようにすると
節税の幅を縮めることができるわけですが、
そうすると、
現状の国税職員寮の賃料が非常に安いという事実について
説明ができなくなってしまうのです。
この理由から、
本来であれば個人負担すべき金額の法人へのつけ込みにつながってしまう社宅節税を
容認せざるをえないこととなってしまっているのです。
この事実を聞かされると、
「なんだかなぁ」と思ってしまいます。
しかし、会社内のガバナンス的にどうか?
法人の節税はまさにイタチごっこで、
効果的な節税が生み出されると、
それを多くの人が利用することで、
国税としては黙っておけなくなり、
税法改正でフタをする、
ということが繰り返されてきております。
特に昨今は、情報の広がりがとてつもなく早いですから、
新しく編み出された節税策も
あっという間に普及(?)してしまい、
あっという間に芽を摘まれる、
という様相を呈しています。
そんな中残された、数少ない節税策の一つであるわけですが、
短絡的に「じゃあ採用しよう!」と考える前に、
一つ大きな注意点があります。
それは、会社内のガバナンスの問題です。
この節税はいわば、
『社長の個人経費の法人へのつけ込み』ですから、
こういったことを行っていることが社内的に明らかになってしまうと、
「社長は会社を私物化しているのか!」
ということにつながってしまうのです。
経営者とその家族だけの会社であれば、
問題にはならないでしょう。
「この会社はワシのプライベートカンパニーだ」
と宣言している状態であっても、
それほど大きな問題として顕在化することは少ないんじゃないかと思います。
(別な問題はあるかもですが)
しかし、
「この会社は経営者一人のものでなく、社員みんなのもの」とか、
「経営を私物化しない」とか、
「公明正大な経営を行う」とか、
そういったことを日頃から表明している会社が
この節税を採用してしまうと、
「言ってることとやっていることが違う!」
ということで、
社員さんとの信頼関係の部分において
大きな傷跡を残してしまいます。
自社の経営をしっかりした組織にしていこうという方向であれば、
「経営を私物化しない」という方向性が正しいということは
言うまでもないことです。
ですから、
「社宅節税を使うためには、経営をブラックボックスにしろ」
といっているわけではありません。
良い会社をつくり、良い会社になろうとしているのであれば、
こんな節税は使わないのが正解だ、
ということなのです。
社宅節税に限らず、
社長都合による多くの節税は、
社内ガバナンスを乱す元。
多額の利益が出そうなときに
いろんな買い物をして利益を圧縮される方もおられますが、
これだって、
「日頃『経費削減』とか言っておいて、なにやってんだ」
ということになるのです。
ですから利益でもって買い物をするときでも、
まずは社員さんのためになる買い物をしましょう。
普段は「社員さんのため」を謳いながら、
節税の局面になるとそれを無視してしまう方、
以外とおられます。
その行動が社員さんから見たときに
どのように捉えられるのか。
それを考えた上で実行するのかどうなのか、
判断いただけたらと思います。