社長が会社の借金返済のために自分の土地建物を売ったらどうなる?

今日は珍しく、少しマイナーな税務の解説です。
会社の借金の保証人になっている経営者は、ぜひ頭の片隅に。
こんな制度、使うことにならないのが一番なのですが。
※この記事は掲載日時点の諸法令に則っています。
 必要な条件等を全て網羅しているわけではありませんので、実際に制度利用される際は
 税理士に相談のうえ、自己責任にてお願いします。

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経営者は、会社の借金の保証人になっている。

会社が大変な状況になってきて、借金を返済しないといけないがお金がない。
こんなことにはなりたくないものですが、
残念ながら経営者自身の思いとは関係なく、
こんな事態になってしまうことは、あります。

そして日本では、中小企業の経営者は、
自身の会社の借金に対して連帯保証人になっていることがほとんどです。

株式会社・有限会社は「有限責任」であることに大きな意味があるわけですが、
株主と役員が同一であることがほとんどである小零細企業においては、
その有限責任が形骸化してしまってるわけです。

国際的には異常なことらしいので、早々にこの環境は改善すべきだろうと思いますが、
ここで私一人が声をあげてもどうしようもありません。
今日の本題でもありませんので愚痴はこれくらいにいたしまして、
いずれにしても現状としてはこういう状態になってしまっているわけです。

つまり、会社が借金を返せなくなると、
その返済は保証人である役員の方へ請求がまわってきます。
しかし会社で払えない状態になっているときには
役員もすでに自己資金をはきだしてしまっていることがほとんどですから、
そんな会社の借金を請求されても役員個人が返済できるわけがありませんよね。

会社のために不動産を売却して、税金はかかるのか

それでも返済はしないといけないですから、そんな場合、
保証人である役員が、自分の持っている土地建物などを売却して、
その借入金の返済に充てる、ということが行われることもあります。
金融機関からもそういった要請がなされますから、
必然的にそうせざるを得なくなります。

そしてこの土地建物がずっと昔から持っているようなものである場合、
その購入金額がわからないため、
この不動産の譲渡について「譲渡益」が発生します。

譲渡益が発生する、ということは税金が発生する、ということですね。
しかも結構、高額な税金が発生します。
取得価額のわからない土地を5000万で売却したばあいには、
住民税含めておよそ965万もの税金になります。

なんか理不尽ですよね。
借入金を返済するために売却したのに、その全てを返済に充てることができない。
しかもその借入金は自分のものではなく、
保証人であったため支払うことになってものです。
そんな理不尽に対応するため、所得税法でちゃんとカバーされております。

「保証債務を履行するために資産を譲渡した場合の譲渡所得の特例」
と言われるものです。

簡単に説明すると、
自分が保証人になっていた借入金について、
そのもともとの債務者が返済できなくなったため、自分にまわってきた返済に充てるため、
資産を売却した場合には、その売却に対しては税金がかからない、
ということです。

要注意な点

ただこの特例を利用する際には、
何点か大きな注意点があります。
金額が大きくなるものですので、実際に売却・返済する前に、
本当にこの制度を利用できるのか、
慎重に判定することが必要です。

もし売却したお金をすべて返済に充ててしまった後に、
税金を支払わないといけなくなったとなると、目も当てられませんよね。

以下、注意点です。

①保証人になった時点で、その会社が債務超過でないこと

保証人になったときに、会社が債務超過、ということは、
保証人になった時点である程度自分が返済することを前提にしているということですよね。
その時点で会社に返済能力がないことは、ほぼ明らかなわけですから。
最初から保証人自身が支払うつもりで保証人になった借入金に対して、
この特例は利用できません。

②保証人による返済が、弁済期日到来後に行われている、またはすでに期限の利益を喪失している

要は、保証人自身が、自ら進んで資産売却して借入金の返済に充てた場合はダメ、
ということですね。
保証人の立場で「支払わなければならない」状態になって初めて使える制度です。
ですから、返済期日の到来後であったり、
金融機関からの正式な請求があったうえで返済することが重要です。

③自分以外にも連帯保証人がいる

自分以外にも保証人がいる場合、
自分が返済した金額の一部は、他の連帯保証人に請求ができます。
つまりその部分はあくまで立替払いで、自分が返済したことにはならないので、
支払った金額全額についてこの特例が利用できるわけではありません。
例えば、連帯保証人が3人いる場合には、
連帯保証人一人一人が1/3ずつ負担することになりますから、
1/3部分しか適用されないということです。

事前に「連帯債務に関する負担割合の合意書」などで
「自分が100%負担します」などと定めておけば、
これを回避することができます。

以上、いろいろややこしいですが、
こんな特例がある、ということは頭の片隅においておいても良いでしょう。
そのうえで必ず専門家に相談して進めることが必要です。
私の経験上、この特例については税務署が結構うるさいですので。

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